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「そ、それが、先祖伝来の家宝の香炉を、うっかり売ってしまいまして」
「ほう」
「え?家宝なんてあったの?」
頷く亮翔に被せるように、百萌がそう問う。どうやら初耳らしい。それに直義はバツが悪そうな顔をする。
「ああ、そうなんだ。百萌にはまだ見せていなかったか、砧青磁の美しいものでね。いつか、百萌の嫁入り道具にと思っていたんだが」
なるほど、祖父だけでなく父も怯えていた理由はそれか。せっかく嫁入り道具にと考えていたものを売ってしまった。だから怒られたのだと感じたわけか。
「あの、きぬたせいじって何ですか?それにこうろって?」
しかし、千鶴の頭の中にも百萌の頭の中にも具体的な漢字が全く思い浮かばない代物だった。おかげで二人の声がハモってしまう。
「若い方は骨董なんて興味ないから聞いたことさえないですよね。ああ、大丈夫ですよ。私も民放でやっていたお宝鑑定番組や小説で知識を仕入れましたから。この際に覚えておいてください」
亮翔は知らなくても問題ないと、にこりと笑って言う。しかし、この人はそんなところで知識を仕入れるって、どういう人生を歩んできたのやら。というか、そんな雑学、覚えても披露する場も骨董を見に行く機会もないんだけどと千鶴は思う。けれども、理解できないと家宝が全く想像できない。
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