1・中道は難しい

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「うん。観光客が多くて嫌だけど、うちから近いし、デートにはいいかなって。浴衣にはまだ寒い時期だったから、今度は夏に来ようねなんて、いい思い出なんだけど」  琴実はそこで溜め息をもう一度吐く。二人が住むのは愛媛県は松山市。そこから道後温泉は近所に入る。路面電車に乗ってすぐに行ける場所だ。だから高校生がデートで散策していてもおかしくない。 「そこで何かがあったと」 「うん。彼、がっくんがちりめん細工のお店を熱心に見ていたのよ。ひょっとして私にプレゼントって思ったんだけど、そうじゃない感じで。浮気相手にあげるには何か違和感があるのよ。でも、とっても熱心に見てたの。可愛らしい小物の数々を!」  そこでどんっと琴実は机を叩く。その時の顔がよほど納得できないものだったらしい。ちなみにがっくんとは彼氏の愛称だ。本名は高梨岳人。線が細くて中性的な印象があり、女子に絶大な人気を誇る男子である。そんな彼を彼氏にしているのだから、琴実のやきもきが大変なのは解るし、浮気の心配も仕方がないように思う。  しかし、琴実は浮気と考えるには微妙に違うという。これは一体どういうことなのか。千鶴は再び首を傾げてしまう。
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