2・阿頼耶識の恐怖

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「地ビールが飲みたいと思ってますね」  しかし、そんな恭敬に亮翔は冷たくツッコミを入れる。ああ、なるほど。大人の観光客たちの手にはビールがあった。それが羨ましかったのか。お坊さんと雖も人の子だ。 「美味いからなあ、ここの地ビール」  恭敬はしれっとそう言い、 「篠原さんの旅館はひょっとして望月旅館さんか?」  思い出したとばかりに、器用に巻物を持ったまま手を打つ。 「は、はい」 「えっ?凄い。旅行雑誌にも憧れのお宿って載ってるあそこだよね。うわあ、そりゃあ継がなきゃって思うよね」 「ええ」  百萌は少し恥ずかしそうに顔を赤くしたが、千鶴はもっと堂々と言えばいいのにと思ってしまう。それにしても、今まで老舗旅館とぼかされていたが、まさか千鶴も知る有名旅館だったとは。館内には地元の超有名人である正岡子規を初めとして、高浜虚子や種田山頭火といった有名な俳句が飾られていることでも知られている。 「ここだな」  そんなことを言っている間に、車は急な山道を登り切り、重厚な印象のある望月旅館へと到着したのだった。
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