2・阿頼耶識の恐怖

29/38
前へ
/232ページ
次へ
 だが、亮翔は追及することなく、そんなことを言う。それに直義も徳義も明らかにほっとしたようだ。 「昔はよく盆や正月に床の間に飾っていました」  そして徳義がそう教えてくれる。それに亮翔は頷き 「藪入りの際ということですね。旅館の従業員の方々への戒めでしょうか。休みと雖も羽目を外し過ぎず、正しい行いをしなさいという」  そんな言葉を続けた。すると、二人の顔がぎょっとしたものになる。 「あの、藪入りって何ですか?」  百萌がナイスタイミングで質問してくれた。実は千鶴も知らない言葉だった。 「藪入りとは昔、商家に勤めていた奉公人が、正月とお盆に主人の家から実家に帰る日のことを言ったんですよ。お盆の場合は『後の藪入り』なんて言い方もしました。つまり、普段は住み込みで働いているところを、その時ばかりは家に帰れるわけです。当然、羽目を外したくなりますよね」  にこっと笑って答えてくれたのは恭敬だ。なるほどお休みに入る日という意味なのか。それはまさに今の連休と変わらないわけで、ちょっと羽目を外して遊んじゃうのも解る気がする。 「つまり、徳義さんも、また直義さんもこの絵が自戒の意味を込めて家にあることを知っていたわけですね」  そしてそこに凛と響く亮翔の声。それに直義も徳義もびくりと肩を震わせる。
/232ページ

最初のコメントを投稿しよう!

97人が本棚に入れています
本棚に追加