2・阿頼耶識の恐怖

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「えっと、どうしてこの絵が自戒の意味に?」  思わず千鶴はそう訊ねる。確かに怖い顔の仏様だし、何やら怖い一面もあるみたいだ。しかし、なぜ自戒なのだろう。 「ああ、そうですね。お二人はこの絵を見て初め、怖いと思いましたよね。それはなぜですか?」  人の目があるからか、亮翔はにこりと微笑んで千鶴とついでに百萌にもそう問う。なぜ怖いと思ったか。それはもちろん、仏様が微笑んでいるのではなく怖い顔をしているからだ。どちらかと言えば怒っている顔をしている。 「ええ、そのとおりです。なぜなら明王は憤怒の顔を浮かべているんです。つまり本当に怒っているんですよ。では、一体何に怒っているのかというと、仏教に帰依しない人たちに対して怒っているわけです。目先の快楽ばかりを追求している人たちに、考えを改めなさいと怒っているわけですね」  亮翔はにこりと笑ったまま徳義と直義を睨む。その顔を見て、人間の顔って仏様より器用ねと思う千鶴だ。そしてあの顔の方が怖いとも思う。そして先に徳義が反省の弁を述べた。 「申し訳ありません。まさに私は、そうやって怒られるようなことをしてしまいました」 「え?」  その言葉に千鶴だけはなく百萌も目を丸くする。怒られるようなことをしたって、一体何をしたのだろう。
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