15人が本棚に入れています
本棚に追加
1、漂着
昨夜の嵐がうそのように
明けの明星が静かに輝きだした。
しかし低い雲の流れはまだ速く、風は不穏に湿っている。
筑紫の北西の端、玄界灘に面する入江。
白砂の渚はなだらかに弧を描き
両脇の二つの岬が、入り江を抱きかかえている。
嵐の名残で、海はまだ黒くうねり
波頭が白く泡立って打ち寄せていたが
その砂浜を、一人の男が
打ち上げられた夥しい海草を避けるようにして歩いてゆく。
男の名前は、ウズミネ。
この海辺一帯に暮らす「ムナカタ族」の長だった。
柔らかい鹿革でできたヤマト式の朝服は
「ムラジ」という聞きなれない称号と共に
ヤマトの「オオキミ」から贈られたものだった。
最初のコメントを投稿しよう!