1、漂着

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1、漂着

昨夜の嵐がうそのように 明けの明星が静かに輝きだした。 しかし低い雲の流れはまだ速く、風は不穏に湿っている。 筑紫の北西の端、玄界灘に面する入江。 白砂の渚はなだらかに弧を描き 両脇の二つの岬が、入り江を抱きかかえている。 嵐の名残で、海はまだ黒くうねり 波頭が白く泡立って打ち寄せていたが その砂浜を、一人の男が 打ち上げられた夥しい海草を避けるようにして歩いてゆく。 男の名前は、ウズミネ。 この海辺一帯に暮らす「ムナカタ族」の長だった。 柔らかい鹿革でできたヤマト式の朝服は 「ムラジ」という聞きなれない称号と共に ヤマトの「オオキミ」から贈られたものだった。
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