2、トジミミ

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(相手が女なら、力になって味方にしろ 男なら、白痴のふりをして警戒させるな) トジミミが一人で生きてゆくための母の教えだった。 さて どう振る舞うべきか、迷っているうちに 「この女を館に運ぶから オマエにもついてきてもらう」 トジミミが白痴でないことをウズミネは既に見抜いていた。 そして懐から木片を取りだし唇にあてた。 それは一種の呼子(よぶこ)で 常人の耳には聞こえない音を響かせる。 暫くして十人ほどの人影が浜の後ろに広がる松林から 朝霧にまぎれるように現れた。 それはウズミネの肝入りの間者(かんじゃ)だった。 間者たちはウズミネの手足、目、耳となって 人の通らない山道を縦横無尽に渡り 遠くヤマトまで行き来している。 ウツロ船の女は、間者に担がれて トジミミも取り囲まれ ウズミネの屋敷に連れて行かれたのだった。
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