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沙羅(さら)…これは老巫女の名前である…は
女の床のわきに膝を進めて
頭の上で合掌し、倒れるようにひれ伏した。
これは目上の女性に対する最敬礼で
タンラ、シルラ、ペクチュ(百済)でも同様の作法である。
沙羅が話しかけると、女は消え入るような声で応えだした。
「やはり、シルラ(新羅)の女です」
沙羅が言うと、ウズミネはうなずいた。
1月ほども前になるだろうか
対馬の漁場から戻った男たちから、ウズミネは妙な話を聞いた。
対馬島の北の海岸にシルラ人の無残な屍が、
このところ毎日のように流れ着くというのだ。
どうやらシルラの都で戦が起きて宮廷が燃え落ち、
多くの貴人たちが落ちのび、船で逃げた。
途中で追手に殺されるか
船が転覆するかで夥しく死人が出た。
それが波に乗って、対馬に流れ着くという。
玄界灘とは、そう簡単に素人が渡れる海ではないのだ。
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