3、ウズミネの屋敷

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沙羅(さら)…これは老巫女の名前である…は 女の床のわきに膝を進めて 頭の上で合掌し、倒れるようにひれ伏した。 これは目上の女性に対する最敬礼で タンラ、シルラ、ペクチュ(百済)でも同様の作法である。 沙羅が話しかけると、女は消え入るような声で応えだした。 「やはり、シルラ(新羅)の女です」 沙羅が言うと、ウズミネはうなずいた。 1月ほども前になるだろうか 対馬の漁場から戻った男たちから、ウズミネは妙な話を聞いた。 対馬島の北の海岸にシルラ人の無残な屍が、 このところ毎日のように流れ着くというのだ。 どうやらシルラの都で戦が起きて宮廷が燃え落ち、 多くの貴人たちが落ちのび、船で逃げた。 途中で追手に殺されるか 船が転覆するかで夥しく死人が出た。 それが波に乗って、対馬に流れ着くという。 玄界灘とは、そう簡単に素人が渡れる海ではないのだ。
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