1、漂着

2/6
前へ
/67ページ
次へ
入り江の両端の岬周辺は 大型の船が停泊するのに十分の深さが有る。 それが、ここを古くから良港とした理由である。 ムナカタの地は シルラ(新羅)、ペクチュ(百済)、タンラ(耽羅)、カラ(加羅)など 小国が分立する朝鮮半島へ繋がる重要な海路の出発点でもあり 対馬暖流の潮目がぶつかる、豊かな漁場でもある。 その漁場と、半島へ続く玄海の道を、 縦横無尽に行き来する海人「ムナカタ衆」を束ねてきたのが ウズミネの一族だった。 「ムナカタ衆」… 成人に達した男子は、 胸に蛇の文様を刺青する習わしのためにそう呼ばれた。 その蛮勇に対する畏怖と差別を込めて、 倭でも朝鮮半島の国々でも、彼らは「ムナカタ」と呼ばれている。 (また降り出したか) ウズミネはぽつりと頬に落ちたものを掌で確かめる。 雲がめまぐるしく色を変えて 飛ぶように流れているのを見上げると その雲間に、珍しい二重の虹が現れ 先端を波間に落としているのに気づいた。 (奇妙な虹だ…見たこともない)
/67ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加