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2、トジミミ
先ほどから、海岸でのいきさつをずっと見届けていた人影が一つ。
トジミミはウツロ船に近づくと、
鼻と口を押さえて
倒れているウズミネの息のあることを確認し、
すぐその場から離れた。
(この匂いは、芥子、ケシにちがいない)
トジミミにとって、知らぬ匂いではない。
占いを生業として生きていた母が
特に重要な占いに際して「神がかる」とき、
自ら意識をなくすのにケシを使っていたからだった。
ケシの瘴気は人を仮死状態にはするが殺しはしない。
正気を自然に取り戻すまで寝かせておく以外にすべはないのだ。
ウズミネは放っておけば一時ほどで目を覚ますはずだった。
しかし、ウツロ船の女は
瘴気にあたった時間も長く、漂流で体力も奪われている。
トジミミは自分よりずっと背の高い女を背負うと
引きずるようにして
浜辺の外れの祓い場(ハライバ)と呼びならわされている小屋に運んで行った。
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