2、トジミミ

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祓い場の入口には 木彫りの烏が乗った二本の細い柱があって 縄が渡してあったのだが、昨夜の嵐で跡形もなかった。 これは「トリイ」と呼ぶ一種の境界線で これをくぐって先は男は入れない決まりだったが トジミミは女を背負ったまま入って行った。 トジミミは生まれつき耳が全く聞こえなかった。 小柄で幼い顔つきをしているが成人した男である。 死んだ母の着ていた古い袷をまとっているので ますます、大人だか子供だか、男だか女だか、わからない。
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