2、トジミミ

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トジミミの母親は 代々「カゼヨミ」と呼ばれる占い師だった。 祓い場で、海の天気や漁の吉凶を占って暮らしを立てていた。 村の女達は、毎朝必ず浜の祓い場に来て、 今日の海について占いを聞く代わりに食べ物を置いてゆく。 占いははずれることは無かった。 空の様子が「凪」であっても、 「カゼヨミ」が荒れると言えば海は荒れるのだ。 母が死んだ後も、 トジミミは小屋に住み続け「カゼヨミ」をしていた。 女にしか受け継がれないはずのカゼヨミの能力が 耳が聞こえないことと引き換えかのように トジミミには引き継がれていたのだ。 目じりの下がった丸い目は離れ、 口角の上がった口元はいつも微笑しているように見えた。 耳が聞こえず、言葉も話さないトジミミは 一見白痴にみえる。が、実際かなり理知の働く 場合によっては狡猾ともいえる若者だった。
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