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だが増田の話を受けて、玲子は、自分が確信した宅見の本音は間違ってはいない
と改めて思った。
そして、自分のどこかで、宅見に対する気持ちが更に冷めていくのを感じる。
一方で、宅見への気持ちが冷めるほどに、それは玲子に角野を意識させた。
だが、職場が同じキャンパス内といえども偶然の出会い頭が毎朝あるわけでも
ないし、彼との接点が増える新たな要素がある訳でもない。
それでも、心の隅でいつも角野を意識するようになってから、玲子は色んな事を
ぼんやり考えるようになった。
あの時、私は、彼を何て呼んでたんだろう。
それとも、彼の名前を口にしなかったのかしら。
何より私たち、会話らしい会話をしていたのかな。
玲子も角野も、活発に話をする質ではない。
そしてそれは、恐らく子供の頃から変わってないだろう。
だけど、お祖父ちゃんは、たぶん彼の名前は口にしてたはずよね。
なのに、なぜ玲子は「角野 巧」という名前を記憶してなかったのだろうか。
気付くと、こんな事をつらつらと思い巡らせながら、最後はやはり手紙の事に
思いが行き着く。
そんな日々を過ごす内に、いつしか週末の買い出し前に市民公園の野草の丘を
散歩するのが、新たな玲子の習慣となっていた。
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