16 花冠とモンシロチョウ

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軽めの遅い朝食を終えた玲子は、いつもよりも身軽な小さめのリュックを背に 家を出た。 この日は一日雨の予報なのか、厚く垂れこめた空からは、相変わらず煙るような 霧雨が降ってくる。 しかし玲子は、あまり気にならなかった。 そして、まずは手早く買い物を済ませて宅配を頼み、そのまま足を公園へと 向ける。 今年は暖かかったから、そろそろチューリップも咲き始めたかしら。 そんな独り言を思い浮かべながら向かった公園は、さすがに生憎のお天気もあり、 人の姿はほとんどない。 そして辺りには、どこか土の匂いが漂っていた。 「あぁ、チューリップは、まだだったか」 玲子は、花壇の前でちょっと足を止め、小さく独り言を呟く。 しかし、花壇から視線を高く上げると、しっとりと雨に濡れるモクレンが満開。 そして、ゆっくりと足を進めた先では、桜の木の枝に小さな蕾が膨らんできて いた。 もう少ししたら、花盛りになるわね。 なんとなく心が躍り、雨の中を歩く玲子の足も軽くなる。 そして、いつもの野草の丘に向かうと、遊歩道から丘を眺める先客の姿が ひとり有った。
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