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傘で隠れているものの、後ろ姿は男性だと分かる。
だが、もちろん誰にでも解放された場所だから、散歩する人が居ても不思議は
ない。
だから玲子も、特に気にせず、ゆっくりと丘に近づいていった。
ところが、彼女の小さな足音に気付いたのか、不意に先客が玲子のほうを
振り返る。
そして思わず彼らは、声を重ねていた。
「「あっ……」」
そこに居たのは、角野だった。
「こんにちは」
彼は、相変わらず笑顔になるでもなく小さく会釈をする。
そして同じく短い挨拶と会釈を返した玲子から、丘へと視線を戻した彼が
静かに、だが唐突に言った。
「ここで花冠を作った時の事、憶えてますか?」
少し距離を置いて彼と並んだ玲子の胸が、思わずドキリと跳ねた。
お陰で、「はい」と答える玲子の声が、わずかに掠れる。
しかし角野は、それには気付かなかったらしい。
「あの時、花冠をかぶった貴女の背中にモンシロチョウが止まったんです」
独り言のように言った角野の言葉が、玲子に、あの日の少年の言葉を蘇らせる。
妖精みたいに羽がある。
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