16 花冠とモンシロチョウ

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傘で隠れているものの、後ろ姿は男性だと分かる。 だが、もちろん誰にでも解放された場所だから、散歩する人が居ても不思議は ない。 だから玲子も、特に気にせず、ゆっくりと丘に近づいていった。 ところが、彼女の小さな足音に気付いたのか、不意に先客が玲子のほうを 振り返る。 そして思わず彼らは、声を重ねていた。 「「あっ……」」 そこに居たのは、角野だった。 「こんにちは」 彼は、相変わらず笑顔になるでもなく小さく会釈をする。 そして同じく短い挨拶と会釈を返した玲子から、丘へと視線を戻した彼が 静かに、だが唐突に言った。 「ここで花冠を作った時の事、憶えてますか?」 少し距離を置いて彼と並んだ玲子の胸が、思わずドキリと跳ねた。 お陰で、「はい」と答える玲子の声が、わずかに掠れる。 しかし角野は、それには気付かなかったらしい。 「あの時、花冠をかぶった貴女の背中にモンシロチョウが止まったんです」 独り言のように言った角野の言葉が、玲子に、あの日の少年の言葉を蘇らせる。 妖精みたいに羽がある。
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