16 花冠とモンシロチョウ

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途端、玲子の胸がドキドキと高鳴り始め、傘を持つ手が微かに震えだす。 しかし、やっぱり角野は気付かないのか、真っ直ぐに丘を見詰めたままで話を 続けた。 「水色のワンピース姿の貴女は、まるで妖精のように、僕には見えました」 そして角野は、少しだけ視線を落とした。 「実は、あれが僕の初恋でした」 えっ……。 思わず声を詰まらせた玲子にチラリと視線を向けた角野は、少し照れ臭そうな 笑みを目元に浮かべる。 そして、再び丘に目を向け、彼は更に言葉を続けた。 「でも幼かった僕は、それ以来あなたに会うことが出来なくなってしまいました。 胸がドキドキする程、あなたを好きになってしまったのに……」 だから角野少年は、祖父母を訪ねてきた玲子を、いつもひっそりと眺めていた という。 「今だったら大変な事になりかねませんけど、あの頃は、まだストーカーなんて 言葉もなかったですからね」 はっきりと苦笑を浮かべた角野と彼の横顔を見詰める玲子の間に、短い沈黙が 横たわる。 そして玲子は、何かに突き動かされるように訊いていた。 「あの、私、角野さんからお手紙を頂いてますか?」
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