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途端、玲子の胸がドキドキと高鳴り始め、傘を持つ手が微かに震えだす。
しかし、やっぱり角野は気付かないのか、真っ直ぐに丘を見詰めたままで話を
続けた。
「水色のワンピース姿の貴女は、まるで妖精のように、僕には見えました」
そして角野は、少しだけ視線を落とした。
「実は、あれが僕の初恋でした」
えっ……。
思わず声を詰まらせた玲子にチラリと視線を向けた角野は、少し照れ臭そうな
笑みを目元に浮かべる。
そして、再び丘に目を向け、彼は更に言葉を続けた。
「でも幼かった僕は、それ以来あなたに会うことが出来なくなってしまいました。
胸がドキドキする程、あなたを好きになってしまったのに……」
だから角野少年は、祖父母を訪ねてきた玲子を、いつもひっそりと眺めていた
という。
「今だったら大変な事になりかねませんけど、あの頃は、まだストーカーなんて
言葉もなかったですからね」
はっきりと苦笑を浮かべた角野と彼の横顔を見詰める玲子の間に、短い沈黙が
横たわる。
そして玲子は、何かに突き動かされるように訊いていた。
「あの、私、角野さんからお手紙を頂いてますか?」
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