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「気付いてくださいましたか」
ゆっくりと角野の視線が、玲子の視線と重なった。
「不器用な僕には、あれが精一杯でした。
でも、もう二度とお会いできないかもしれないと思うと、どうしても気持ち
だけは伝えたかった」
そして……。
短く言葉を切った角野は、少しだけ玲子を見詰める。
それから、再び、ゆっくりと口を開いた。
「お祖父さまの離れをお借りして、時々こうして星野さんともお会いするように
なって、改めて気付きました。
どうやら僕は、今でも貴女が好きならしい」
大きく胸が跳ねると同時に、声も言葉もすっかり消える。
だが、早鐘のように鼓動が胸を叩くのに、玲子は、その場から離れたいと
思えなかった。
そして、玲子のそんな様子を、角野はどう思ったのか。
「でもこれは、僕の自己満足のための告白です。
たとえ貴女に何とも思われていなくても、気持ちだけは伝えたかった。
だから……」
しかし玲子は、自分でも驚きつつ、彼の言葉を遮っていた。
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