16 花冠とモンシロチョウ

8/10
前へ
/182ページ
次へ
「気付いてくださいましたか」 ゆっくりと角野の視線が、玲子の視線と重なった。 「不器用な僕には、あれが精一杯でした。 でも、もう二度とお会いできないかもしれないと思うと、どうしても気持ち だけは伝えたかった」 そして……。 短く言葉を切った角野は、少しだけ玲子を見詰める。 それから、再び、ゆっくりと口を開いた。 「お祖父さまの離れをお借りして、時々こうして星野さんともお会いするように なって、改めて気付きました。 どうやら僕は、今でも貴女が好きならしい」 大きく胸が跳ねると同時に、声も言葉もすっかり消える。 だが、早鐘のように鼓動が胸を叩くのに、玲子は、その場から離れたいと 思えなかった。 そして、玲子のそんな様子を、角野はどう思ったのか。 「でもこれは、僕の自己満足のための告白です。 たとえ貴女に何とも思われていなくても、気持ちだけは伝えたかった。 だから……」 しかし玲子は、自分でも驚きつつ、彼の言葉を遮っていた。
/182ページ

最初のコメントを投稿しよう!

26人が本棚に入れています
本棚に追加