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「ありがとう」
小さくはにかんだ笑みを口元に浮かべた玲子の手を、角野の浅黒い手が
そっと握った。
「じゃあ、行こう。今日は、モンシロチョウにも会えるといいけど」
うん。
春は、爛漫。角野の愛する植物たちは、二人の恋を祝福するように咲き誇って
いる。
そして、丘の上で揺れる満開のシロツメクサの花言葉は、「約束」。
幼い初恋がもたらした、一通のラブレター。
その手紙の中で告げられた約束が、どこかで大人になる二人をつなげ続けたの
かもしれない。
だが、淡い少年の初恋が実ることを祖父が願い続けていたことを、角野も玲子も
知らない。
見てちょうだい、あなたの願いは叶いましたよ。
そして、彼らの後ろ姿を、そっと家の中から見送る祖母の独り言を、やっぱり
彼らは知らない。
しかし、まさに、これから彼らの恋は春爛漫を迎えようとしている。
それだけで、彼らも彼らの周りも満足だった。
~ fin ~
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