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交差点の向こうから手を振って現れたのは、それはそれは、誰もが口を揃えて断言するほどの爽やかな好青年で、笑顔が上品なのにどこか可愛らしく。
なにより、どう見ても若かったのだ。
「ねぇ、あれ……年下よね?」
「たぶん俺より……若いっすよ、あの子」
月子さんと現れた好青年は楽しげに会話をしているものの、手を繋ぐことも身体を密着させることもなく、ごく普通の友人といった感じ。
「あの様子だと、まだ付き合ってもなさそうね」
だけど、明らかに月子さんの表情は俺たちが知っているデフォルトのものとはかけ離れていて。
まるで知らない女性を見ているかのようで、俺は少しだけ寂しかった。
だって、俺たちの月子さんが、知らない人になってしまうみたいで……
「よくさぁ、年上も年下も関係無いって言うじゃない。頭では分かってるんだけど、いざ恋をしようとすると年下相手ってのはなかなか勇気が出ないのよ。特に最近の男の子って、女の子よりも肌が綺麗だったり、美意識も高いしさ」
瀬名さんはビルの影から月子さんと好青年を監視しつつ、どこか心配そうに見守っていて、こんな瀬名さんを見るのは初めてだった。
「まぁ……確かに俺の学生時代の友達なんかも、みんな綺麗な顔してますかね」
「でしょ? だからさ、隣に並んで歩くのだけでも色々考えちゃうわけよ。好きな人がいるとね、肌荒れひとつでありえないくらい悩んだりするの。それがお肌ピカピカの、皺なんてゼロの若いイケメンだったら尚更、自分に自信が持てなくなる。若い子には勝てないなぁって、諦めそうになる。そう考えると月子は相当葛藤があるんじゃないかなぁ……まぁ、あの子があんなに幸せそうに笑ってんだから、きっと良い人なんだろうけど」
瀬名さんがなんとも言えない、複雑な顔で笑った。
「瀬名さん……」
いつもは月子さんと仕事のことで討論になったり、月子さんがありえないほど運が悪いことをネタに揶揄ったりしてるけど。
きっとこの人は、月子さんが泣くようなことでもあろうものなら、いくらあの爽やかなイケメン好青年であろうとも、殴り飛ばす気なんだろうな。
俺には分からない二人の強い絆というか、友情が伝わってきて。
俺は初めて、自分が年下であることが悔しくて仕方なかった。
せめて同じ年に生まれていたなら。
もっと彼女達を支えられる存在でいられたのかもしれないのに。
もっと勇気づけたり、頼って貰える男でいられたかもしれないのに。
「今日見たこと、佐久間と私だけの秘密だからね……って、なんであんた泣きそうな顔してんのよ!」
瀬名さんの言葉と同時に、俺はその場に崩れ落ちた。
「だって、俺……自分が年下ってことが悔しくて仕方ないんですよぉ。全然役に立ててないし、いつも迷惑かけてばっかだし……」
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