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すっかり遠くに行ってしまった月子さんと好青年くんの姿が滲んでいく。目尻から涙がこぼれそうで、手の甲で拭った。
あぁ、上善は水の如し。
本当は知ってるんですよ、牧村部長。
何事にも水のように逆らうことなく、柔軟に形を変えていくのが理想的な生き方だって意味ですよね。
だけど俺は昔からこだわりが強くて、女の子は年下で若くてお肌が艶々で、なんならスレンダーでお胸もそこそこ欲しいなって。
もひとつ言えば、仕事に理解があって、愚痴を聴いてくれて、でもいざというときはビシッと怒ってくれる頼れる彼女が欲しいなって。
そんなことばかり言ってるから、これまで長続きしない恋ばかりだったのでしょう。
だけど月子さんたちが沢山の葛藤と闘ってるんだと分かって、俺はようやく気付いたのです。
女の子は年齢とか外見じゃないんだって。
好きな人のために努力してる姿そのものが、もう胸キュンなんだって。
だから牧村部長に誓います。
俺は本日をもって、“女好き佐久間俊平”を封印します。
そして、月子さんや瀬名さんが頼ってくれるような、柔軟な水のように包みこめるだけの立派な男に成長するまでは、決して恋はしないと……
「でもね、佐久間。年上だろうが年下だろうが、そんなの関係なくなっちゃうとっておきの魔法があるの」
そう、心に決めようと思ったのに。
「え……」
俺はすっかり忘れていたのだ。
そもそも年上とか年下とか以前に。
“傾国の美女”なんて言葉があるように、国をも動かす程のとんでもない魔力を持ってるのが美女なんだって。
「女ってのはね、気になる人に“綺麗だ”って言われたら、イチコロなんだから」
「え、瀬名さんもそうなんすか?」
「そうね。例えば私なら……」
夜空の下、舞い降りた天女のように美しく、どこか憂いを帯びた瀬名さんの瞳はJKには決して醸し出せない色気で満ちていた。
それはまるで、魚が泳ぐのを忘れてしまうほどの、雁が次々堕ちてしまうほどの、月が恥じて隠れてしまうほどの、花が気圧されて萎んでしまうほどの。
まさに、傾国の美女と呼ばれる楊貴妃もびっくりの妖艶さで。
「可愛い眼鏡の年下くんに言って欲しいかな」
俺はまんまと、
恋に堕ちた。
「綺麗です、瀬名さん」
fin
※そのうち長編でお会いしましょう⭐︎
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