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「ここは」
返事は返ってこない。
それもその筈だ。こんな場所に誰かがいるわけがないのだから。
幻想的な空間を作り上げる光は尚も輝き続ける。俺は自然と導かれるように、その光へ手を伸ばした。
「っ!?」
光に触れた瞬間、光は突然膨れ上がり俺の視界を、この空間自体を包み込む。
光に包まれた俺は何故か落ち着いていた。いや、落ち着かざるを得なかった。
謎めいた知識が頭の中に流れ込んでくると共に光に心が洗われていく。ありとあらゆる負の感情が真っ白に塗り替えられていき、思い出も全て――。
「いらん!」
しかし、思い出だけは残った。俺自身が、思い出の浄化を拒んだ。
思い出を浄化されると言うことは俺自身の人生を、スエナとの人生を拒絶されると言うこと。
それだけはスエナに裏切られても尚、嫌だった。
今でもまだ、スエナは好きだ。あんな光景、信じたくもない。
でもあれは現実。起きてしまったことを消すことなんて出来ない。
だが俺はこの思い出を背負っていく。否定なんてさせない。
俺の人生は間違いなんかじゃなかったと胸を張る。スエナと築いた今までは決して間違いなんかじゃないと。
俺は今もまだ、幸せだと。
今ではもう勇者やスエナに対する負の感情はない。それらは全て浄化された。
まるで別人にでもなったかのような気分だった。
光はもうここにはない。全て俺の一部となった。代わりに光があった場所には1本の剣が浮いている。
「こいつは…」
柄を掴む。柄から鍔、刀身まで真っ黒の両刃の剣は見た目以上に軽かった。
何故か初めて持ったと言う感じはしない。寧ろ、生まれた頃から知っているかのような…。
「ああ、そうか」
こいつは俺の負の感情そのものだ。俺の浄化された負の感情は消えたのではなく、俺の片割れとして具現された。
ならばこの剣のことが何から何まで分かるのは当然のこと。
俺が剣を掲げると不思議なことに黒い剣からは純白の光が解き放たれた。再び俺を包む光。俺はその中で、考え事をしていた。
この剣の名前についてだ。全部真っ黒だし柄の形が桜っぽい。
単純だが思い浮かんだのは1つだけだ。何の面白みもないけど。
「お前は«黒桜»だ」
気付けば俺は落ちた穴の外に立っていた――黒桜を腰に携えて。
「あれ?ここどこ!?」
SOS。突然ですが、俺こと«聖月レイ»は迷子になりました。
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