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第1話「吹雪とドラゴン」
◇
「どうやってここまで来たのか覚えてねえ…」
そもそも俺は方向音痴。村から殆ど出たことないくせに誰もいないとことか目指せばこうなる。
穴から出て気付いたけど周囲はありえないレベルの猛吹雪。寒過ぎて死にそうだ。
ってか以前の俺どうやってここまで来たんだよ!
「うぅーうっ!さむっ!!こんな時はこたつこたつ…」
どこからともなく現れたこたつに潜り込んで凍えたこの身体を暖める。
もう2度と出れないかもしれない。
「やっべぇ…こたつやべぇ…」
そう言えばこのこたつ何をエネルギーに動いてんの?
不意に浮かび上がる疑問。コンセントも繋がってないのに一体どうやって動いてるのか。
いや、コンセント云々言い出したらこの世界自体にコンセントを挿せる場所がないからそこが問題になってくるな。
「ごべあっ!!!?」
真面目に頭を悩ませ始めた時だ。突然俺はこたつごと踏み潰された。
超重量級。幾ら暴れても避けてくれる気配はしない。
「いて、ちょ!痛いから!!踏んでるから!!踏まれてるから俺!!こたつと地面の雪にプレスされてるから!!やめて、やめろって!!おい聞いてんのかぁ!?」
なんか地面が雪だと思った途端急にこたつが暖かく感じなくなってきた。もしかして暖かかったのってただの思い込み…?
そんなことはどうでもいい。幾ら語りかけても返事は返ってこないし避ける動作もしない。
いよいよ限界を迎えた俺は力任せに起き上がる。
「聞けよ山田ァ!?!?」
『誰が山田ぞ』
「テメェだよ!!何喋れんのに無視してんだよ!?」
『無視なぞしておらん。うるさいから聞いて聞かぬふりをしたまでよ』
「それを無視って言うんですけどぉ!?」
こいつ完全に舐め腐ってやがるな。図体のデカイドラゴンだからつて調子に乗りやがって…うん?ドラゴン?
「ってドラゴン!?!?」
『如何にも、我がテンペストドラゴン様だ』
「でけぇ!!かっけぇ!!」
『ふふふ、そうだろうそうだろう。もっと褒め讃えよ人間』
「調子乗んなって言っただろうがああああ!!」
『ぶべぇ!?何で!?』
容姿を褒めたら付け上がり始めたテンペストドラゴン(笑)の顔面へ飛び上がり渾身のストレートをお見舞いする。
まるでパンチングマシンの如く首が揺れ動いた。
「なんかウザかったからさぁ…」
『そんなんで殴るとか人間こわ…』
「つーかお前翼あんじゃん。飛べるんだろ?」
『飛べるが…まさかとは思うが乗せて飛べなんぞ言うのではあるまいな?』
「その通りだよ!!さっさと乗せやがれ!!」
『断ったら?』
「殺す」
『いいよのって』
やったぜ!乗り物ゲットだぜ!
俺を乗せたテンペストドラゴンはこの猛吹雪をものともせず飛翔してどこかしらへ飛ぶ。
俺の村まで言ってほしいんだけど何せ俺は方向音痴な上に20年世話になった村の名前すら知らない。おまけに地図も見られないときた。
そもそも地図見れても村の名前分からなかったら意味無いよねー。
「取り敢えず暖かい国へ飛べ!!いつまでもこんな寒いとこいてられるか!!」
『勝手に自分から迷い込んできたくせに随分な物言いであるな!?』
「ええい!うるせいうるさい!!こうしてやる!!」
テンペストドラゴンがうるさいから尻尾まで移動して尾の先を握り締めてやる。こうすると速さが増すはずだ!
『痛いわ貴様!!』
「あっぢょっ!!まあああああああっづ!!」
思った以上に強く握り締めてしまったらしくテンペストドラゴンは痛がって全力で俺を振り払った。
まるで流れ星の如く。極寒の地も抜けて山も越えて大草原に辿り着く。俺の村付近かと錯覚したけど冷静に見てみると全然違った。
そして俺は地面に頭から突き刺さった。
「へ、へるぷみー…」
突き刺さったまま発する情けない俺の声は草原のそよ風に乗って消えていったのであった。
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