第1話「吹雪とドラゴン」

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◇ 「いやあ!助かった助かった!あのまま誰も助けてくれなかったらどうしようかと!」 「寧ろどうやってああなったのか不思議なくらいなんですけど…」 あの後数分かはたまた数十分かを経て偶然通りがかった運び屋を名乗る青年に助けられた俺はどうせだからと近くの町まで乗せていってもらうことにした。 「テンペストドラゴンって奴に振り落とされてああなったんだよ、酷くねえか?」 「ひ、酷いも何もその話本当ですか!?テンペストドラゴンって言うとドラゴン族の中でも最も強いドラゴンですよ!?寧ろよく生きてましたね!?」 そんなに強そうには見えなかったんだけどここは余計なことは言わないでおこう。 「たまたまおだやかだったんだろなー!いやあよかったよかった!」 「本当ですよ!!テンペストドラゴンを怒らせると天変地異まで起こるって話ですから!!」 「マジで!?あっぶねー!!」 そんなにやばい奴とは思わなかった。結構力強く殴ったけど大丈夫だよな?今更怒って天変地異ドオオオオンッっとかないよな? 「まあそんな話はともかく」 「そんな話!?結構深刻でしたよね!?」 「どこ向かってんだ、この馬車?」 「あれ!?スルー!?」 一々やかましい奴だな。少しは声のトーンを抑えることは出来ないのだろうか。 「ま、まあいいでしょう。えっとですね、今僕達が向かっているのは空守(あす)の里です」 「あすのさと…?縦語(たてご)か?」 縦語。漢字と呼ばれる言語を主に用いた言語の事だ。 「ええ。随分不思議そうに聞くんですね」 「不思議そうって、そりゃそうだろ。縦語ってのは本来人の苗字や物の名前に使う言語だ。俺の聖月レイの聖月みたいにさ」 それが地名に使われたりしてたらそりゃ不思議に思う。 逆に運び屋の青年は俺の言葉に対して不思議そうな顔をしやがる。 「聖月さんでしたっけ?横語(よこご)が苗字や物だけに使われる時代は5年前に既に終わりましたよ」 横語。主にカタカナをメインに用いた言語だ。地名などは全てこの言語を用いている。 それが5年前に終わったってのはどう言うことだ?一体何が起きたんだ? 「5年前に終わったって…なんで?」 「なんでも魔王が死ぬ間際に残した呪いのせいらしいです。世界の常識が一瞬にして塗り替えられてしまって当時は大変でしたよ」 世界の常識が一瞬にして…? 俺が住んでいた村ではそんなことなかった。縦語も横語も俺が持っている認識そのものだった筈だ。 いや、そもそも5年前って言うのはいつからだ? 俺が村を飛び出す前からか? それとも俺が村を飛び出してあの穴に落ちた後からか? それよりも気になることがある。魔王についてだ。 「待てよ、魔王は倒されたのか?」 「ええ、5年前に」 「嘘を吐くなパーンチ!!」 「ふがっ!?な、なな、何するんですか!?」 「いや、嘘吐きは取り敢えず殴れって母さんに習ったから」 「ろくでもない母さんですね!?それに嘘じゃ」 「母さんをバカにするな!!」 「ごめんなざびっ!!」 左頬と右頬を両方殴ってやった。後悔も反省もしてない。 しかし、運び屋の青年発言で確信出来た。 それでも推測でしかないが、俺の知らない5年前は俺が穴に落ちている間に起きた出来事だ。 少なくとも俺が村にいた時点で魔王討伐の噂はなかったし、勇者が現れたと世界に知れ渡ったのは勇者が俺達の村に来る2ヶ月程前だ。 5年前に魔王が討伐されたのでは辻褄が合わない。 そうなるともう俺が穴に落ちていた間に5年の時が流れていたとしか考えられない。 そもそもが不思議な空間だった。時の流れが外と違うことに納得出来る。 って事は勇者の奴、俺のスエナを寝取るだけ寝取って魔王討伐に行ったってことかよ。なんか癪だなー。 そんなこと考えているうちに俺達の前方に目的地らしきのが見えてきた。 「で?そのあすのさとってのはあれか?」 「そうです!空を守る里と書いて空守の里、空を飛ぶことが出来る種族の里です!」 「空守の里か…大層な名前だな」 「失礼ですよ!この里には5年前勇者様と共に旅をしていたと言う人もいるらしいんですよ!」 「何!?それは本当か!?サンキューありがとな!!」 礼だけ言って馬車を飛び降り、運び屋の青年とお別れする。 そもそも名すら語られない人物だ。この先会うこともないだろう。 それより勇者の仲間だ!そいつからもしかしたら俺の村への帰り道を聞き出せるかもしれない! 俺は帰る為の希望を見つけたと嬉々として里へ駆けるのであった。
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