第2話「空守の里にて」

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◇ ついに俺の怒りが爆発する。 元々クンリとの奮闘で限界値まで達していたものが今目の前にいる化け物鳥3匹のせいでオーバーヒートしてしまったのだ。 「ナマイキナニンゲンメ」 「マズハキサマカラ」 「コロシテヤロウ、コロシテヤロウ!」 臨戦態勢に入る3匹の化け物鳥に向かって腰に提げた鞘から黒桜を抜剣する。 村付近が平和過ぎて魔物と戦ったことなど1度もないが、こう見えて俺は密かに体を鍛えたり剣と言う名の木の棒を振るったりしていずれ魔物に襲われた時の為に鍛錬を積んできた。 さらに黒桜を手にしてからどうも身体の調子がいい。 やばいと言うテンペストドラゴン相手にも無傷で寧ろ殴ってみたりもしてるし5年前(いぜん)より格段と強くなってる筈だ。 今こそこれまで積み上げてきた力を発揮する時! 「だからやかましいつってんだろ!!」 いきなり(ついば)んできた化け物鳥Aから距離を取って黒桜を構える。 「まずは、テメエからだ!」 黒桜を両手で掴み、腰を深く落とす。 そして狙いを化け物鳥Aに定め、低い体勢を保ったまま駆ける。 「村で磨き上げたこの剣技…」 自分でも驚く程の速さで化け物鳥Aの懐に潜り込めた俺はその勢いのまま黒桜の刃を化け物鳥Aの腹部へ宛てがう。 「味わうがいい!!」 そしてそのまま前方に飛び上がりつつ化け物鳥Aを斬り裂いた。 ちなみにこの技は俺が村で覚えたと言うか編み出したオリジナル剣技の1つだ。ひたすら木に向かって木の枝を振るっていたのが懐かしい。 てか今赤い光放たなかった?気のせい? まだ空に飛び上がったままの俺は着地するまでに体の向きを化け物鳥共に変えておく。 「ナンダト、ナンダト」 「ヨクモヤッタナ!ヨクモヤッタナ!」 「それやめろって言ってんだよオラァ!!」 「ギャー!!」 Aをやられて騒ぐ化け物鳥Bに怒りの刺突を放ち絶命させる。 残るは1体のみ。 「ニ、二ゲロ!二ゲロー!!」 飛び立つ化け物鳥Cには剣先を向けて叫ぶ。 「散々騒いだ挙句に逃げるとか夜分遅くまで遊んでて警察に見つかったヤンチャ集団ですかーー!?」 勢いのまま剣先から赤い光を伸ばして化け物鳥Cを穿つ。完全に勢いだけだったんだけど本当に光線を撃ててしまった。 唖然と剣先を見つめていると手も口を出さずにいたクンリが拍手を送ってきた。 「空魔であるコカトリスメンを瞬殺……中々の腕前ですね」 「コカトリスメンって何だよ…」 「だがコカトリスメンは空魔の中でも最弱……」 「うわ、なんか来た!」 よく見たら里の入り口でクンリを紹介してくれた男だ。 お前そんなキャラだった? 「どうやらクンリには会えたみたいだな。どうだ、面倒臭いだろ」 「相当な!」 そうか、やっと理解した。あの時この男が表情を曇らせたのはクンリに会うことに対して気の毒に感じていたからだ。 確かにクンリと会うことは気軽には進められない。俺だって同じ顔すると思う。 会えば分かるとはそう言うことだったのか。 「それはそうと、関係ないお前を空魔との戦いに巻き込んで悪かったな。詫びと言ってはなんだが先日耳にした勇者の情報を教えるよ」 「マジで!?」 「マジだ。勇者の情報と言っても正確には勇者じゃなくて勇者の仲間、だけどな」 それは助かる。凄く助かる。クンリみたいな奴でなければもっと助かる。 「聞かせてくれ」 「ああ。実は近々あのマレボスの城下町に勇者の仲間の聖女で名高いキリエ様が来訪するらしいんだ」 聖女キリエ。名前は初めて知ったけど俺の記憶通りならばその女は勇者と一緒にいたやや露出の多い法衣に身を包んだ女だ。 村の誰かが聖女様とか呼んでいた気がする。スタイルは良かったかな? しかし不可解だ。今この男はマレボスの城下町と言った。魔王の呪いで横語が縦語に変わってしまっている筈なのに。 まさか俺の認識違いなんだろうか。思い返せば運び屋の青年は魔王の呪いで世界の常識が塗り替えられたとしか言っていない。 勝手に俺が縦語と横語が反転したと思い込んでいただけで、本当はもっと根本的に変わってしまっているとしたら? 心当たりがないわけではない。俺もつい自然に使っていたがこたつとやらも手榴弾とやらも明らかに今まで存在しなかった物だ。 そう考えると魔王の呪いは文字通り、世界の常識を塗り替えてしまっている。軽く見ていたが事態は思ったより深刻みたいだ。 俺にとってはデメリットも何もないから気にすることじゃないけど。それより家に帰りたい。 「そのマレボスの城下町ってのはどこなんだ?」 「雪国でしかも三大国(さんたいこく)の1つだぞ?知らないのか?」 「田舎育ちなもんで地理には疎くてな!」 「それなら仕方ないな。マレボスの領土にはあそこの山を越えるか山に沿って迂回していくかすれば着く。ただマレボス側の山の麓にはテンペストドラゴンって言う化け物が棲み付いててとてもじゃないが行けたもんじゃない。命が欲しかったら迂回して行くルートをオススメするぜ。丁度運び屋も里に来てることだしさ」 ここでさっきテンペストドラゴンと会って来たことを伝えたら運び屋の青年みたいに驚かれるんだろう。変に騒がれても困るし黙って行こう。 とどのつまりは山を越えるルートを選択したと言うわけだ。またテンペストドラゴンとも会えるかもしれないし。 そうすれば乗り物ゲットでラッキーだ。 「サンキューな。お陰で希望が見えてきた」 「なんだなんだ?聖女に求婚でもするのか?」 「そんなんじゃねーよ。ただ聞きたいことがあるだけさ。じゃあな、機会があればまた会おうぜ!」 「ああ、またな!」 そう言って俺はそそくさと急斜面な山を降るとか言うか滑って降りて里をおさらばする。クンリに別れは告げてないがまあ別にいいだろ。 もう2度と会うことはないしな! 「いやー、しかし良かったですね。勇者の仲間の情報が掴めて」 「おう、そうだ……なぁっ!?」 ナチュラルに話し掛けて来たから同じくナチュラルに返したがこれは魔王の呪いよりとんでもない事態が発生している。 隣に、平然と、クンリが並んでいる! 「なんで着いてきてんだよ!?」 「だって、当然でしょう?私は勇者エレキに文句が言いたい、アナタは勇者に何かしらの用がある。ほら、利害の一致です」 「利害の一致って…俺はお前といたくないんだけど」 「何故!」 「面倒臭いからだよ!」 「臭いですか?さっきシャワーを浴びたばかりなんですけど」 「ほら面倒臭い!あー!面倒臭い!!」 わざとなのか天然なのか。こうなればもうどうにでもなれ精神だ。 俺は深く溜息を吐いて前を向く。 「もう勝手にしろ…俺は疲れたぜ…」 「では今日から私達は旅友(たびとも)ですね」 「…突っ込まねーぞ」 拝啓、村の皆。俺は元気…じゃないです。 まだまだ村に帰るには時間が掛かりそうだけど健気に頑張っていくつもりなのでどうか応援してて下さい。後、面倒臭い奴が着いてきています。 どっかでくたばるよう心の底から祈ってこれから見守っていて下さい。
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