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ご祝儀袋を買わなくちゃ。
5センチパンケーキを前にして、紗衣は思い出した。
高崎市は飯塚町。“5センチパンケーキ”の店で、果歩とブランチの最中だった。
厚さのあるふわふわのパンケーキが3段。可愛くも危ういパンケーキの上に、ちょこんと乗ったバターが、とろけて下に流れる。
「お紗衣ちゃん」
向かいの席に座る果歩に、静かに声をかけられ、紗衣は「何でもないよ」と返す。
「結婚式のご祝儀袋を買わなくちゃ、と思い出したの」
開店前に整理券を得てしてまで食べたかった5センチパンケーキ。
いざパンケーキを前にしたら、気持ちがしぼんでしまった。
ご祝儀袋だけでなく、結婚式に参列するためのものを一式買わなくてはならない、ということを今まで忘れていた。
それよりも、心に引っかかるのは、昨日の失言。
――お行儀の悪いペットは、しばらく家出します。探さないで下さい。
大好きな彼に、拒絶するようなことを言ってしまった。
こうでもしなければ、自分の気持ちが保たない。しかし、彼を傷つけてしまったかもしれない。
何度も無料通信アプリを開くが、“望月涼太”のアカウントにメッセージを送ることはできなかった。
「果歩ちゃんは、結婚式に参加したことある?」
「あるよ。早い人は、二十歳くらいで結婚しちゃったから」
「じゃあ」
果歩になら色々なことが訊ける。紗衣はそう思ったが、訊いても良いものか、躊躇ってしまった。そんなに迷惑はかけられない。
「お紗衣ちゃん」
5センチパンケーキにメープルシロップをかけながら、果歩が訊ねる。
「お呼ばれしているっていう結婚式、今月だよね?」
「うん。2週間後かな」
「参列するのは初めて?」
「うん、初めて」
「パーティードレスは持っているの?」
「持ってないです」
「バッグは?」
「持ってない、です」
「お髪はどうするの?」
「髪?」
紗衣は、裏返った声で聞き返し、口をつぐんだ。
果歩は、ぐっと握りこぶしに力を入れる。
「食べ終わったら、買いに行こうか。群馬町のショッピングモールが大きいから、必要なものは揃えられると思うよ」
お紗衣ちゃんには何色が似合うかな。
他人のことなのに、果歩は楽しそうだ。
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