3、鍋田達也の場合

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3、鍋田達也の場合

 俺は鍋田達也(なべたたつや)だ。高校3年で今度の6月に18になる。18歳になったら改名をしようと思っている。俺は普段「なべたつ」という愛称で呼ばれているがこの名前がために苦労してきた。それを悩ませるのが俺は普通の高校生じゃないからだ。俺は俳優だ。まだ1歳にもならないうちから劇団に所属し、物心がついたころにはすでに数々のドラマや映画に出ていた。何となく始めた俳優の仕事だったがそれが逆に良かったんだと思う。楽しすぎて猪突猛進になることはなく、大人が喜ぶことをしていれば自然とお仕事が続く。大人が喜ぶ子供を演じて、さらに台本の役を演じるということを意識していたのでその本性がバレればずいぶんと可愛げのない幼少期だったと思う。本当に俺は恵まれていた。中学生に入ってすぐに変声期がきて、さらに成長期が始まると仕事がぱたりと無くなった。ずっと冷めた気持ちでやってきた俳優の仕事がいざ無くなると慌てる分、俺はお芝居が好きなんだと気が付いた。大人が好きな子供を演じてきた俺は大人の俳優を演じなくてはいけないと自ら監督や脚本家に会いに行き、高校生になってから再びお仕事がもらえるようになってきた。
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