名前と僕は共存す

３、鍋田達也の場合

お仕事が順調にいくようになってから1年後、金曜日のゴールデンタイムのドラマで主人公の恋敵を演じてから周りの目が気になってきた。渋谷で買い物をしていると突然「なべたつさんですか？」と顔を指されるようになった。一度お仕事が減ったときからバレるとか考えたことがなかったからその時に慌ててマスクと帽子を買った。しかしバレるときはバレる。マスクも帽子もしているのにいろんな女性に話しかけられる。目だけでバレるのか！女性の観察力には驚かされる。そしてドラマの影響力にも改めて驚かされた。ドラマのおかげでこれからはさらにお仕事が舞い込んでくるかなと嬉しい気持ちもあるが、問題は顔を指されることだ。最初は人気者になった気がして嬉しかったが、時にはバレたくない時もある。喉が痛くて仕事に影響しそうだったので病院に行くと大声で名前を呼ばれる。鍋田達也は本名なので仕方がないが、「鍋田さ～ん、鍋田達也さ～ん。」なんて言われて立った瞬間じろじろと見られる。室内では帽子は被らないのでひたすら下を向いて診察を受けたが、最後にお会計を済ませるときにも名前を呼ばれ、再びじろじろと見られる。誰も話しかけて来ない分被害妄想をしているのではないかと自分自身が嫌になる。俺はそんなに人気者なのか。調子に乗っているだけじゃないのか？？そう自問自答をする毎日になってしまった。