月からの帰還

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 管制塔から無線を通して聞こえてくる、カウントダウン。 「スリー、ツー、ワン、イグニッション!」  第2エンジンと、そのまわりに取りつけられた小さなロケットたち…固形ロケットブースター…が同時に火を噴いた。   「リフトオフ!」  大きな推進力に持ち上げられて、巨大なロケットの機体がゆっくりと空に向かっていく。   分厚い壁に阻まれて、音なんて聞こえない。  ただ、獣が唸るような低音の振動が伝わってくるだけだ。  また宇宙船の操縦席に戻ってきた。  久しぶりだ、この離陸時の高揚感。  重力の反対を押しきって、機体はどんどん上昇していく。  ガタンと機体が揺れた。打ち上げ時の加速を補ってくれたブースターたちは役目を終え、海に落ちていく。 「イェンさん、固形ロケットブースター、分離しました! 続けてフェアリングを剥がします!」  副操縦士のコニーがそう言ってボタンを押したとたん、空気抵抗からロケットを守るための外装…フェアリングが剥がれ、落ちていく。  地上からロケットを見ていれば、ドリームズ社のロゴが描かれたロケットがあらわになった瞬間が見えたかもしれない。  機体が軽くなったことで、より加速していく機体。  地球の重力をふりきるためには、第二宇宙速度…毎秒11.2km以上のスピードで進むことが必須条件。そうでなければ地球の重力に引っ張られ、ロケットごと落下してしまう。  ここが最初の正念場だ。  ロケットが進む方法は二つ。  燃料が生む爆発的な推進力をつかうか。  ロケットに付属するものを切り離し、反作用で進むか。  打ち上げ時にはとにかく力がいる。推進力と反作用、どちらも必要だ。
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