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第二章 2
関西国際空港からの帰路、初対面のぎこちなさが目立つ黒木先生と自分は殆ど無言だった。後部座席では香川先生と美人内科医が二人しか分からない患者の話をしている。
祐樹に取ってはめったに運転出来ない高級車の安定性や重厚な足回りに感心しつつ、時折バックミラーで香川先生の顔を観察してしまう。
何故、これ程の好みのタイプを学生時代に目に留めなかったのだろうか…追憶に耽りそうになって慌てて運転に集中する。
快適とはお世辞にも言えないドライブの後、祐樹は通常勤務に戻った。黒木先生は香川先生と内科の先生――結局名前は聞けなかったと共に学部長に挨拶に向かった。
医局内は慌しいものの、やはり新任教授の人となりを聞きに同僚がやって来る。当たり障りのない返事で誤魔化すしかなかった。
まだ、祐樹は夜勤のシフトが入っていなかったので通常勤務が終って帰宅しようとしていると内科の今居教授――齋藤医学部長の密かなライバルだ――の腹心の准教授が人目を避けるように医局に入って来た。手にはそれらしくカルテ用の封筒を持ってはいたが。
入り口で医局全体を見回し、口を開いた。
「香川先生の話しが漏れてきた。直接被害をこうむるのは君達なので教えに来た」
そう言って、ドアのノブに手を掛け、固定したままで話し出した。こうすれば、新しく入って来ることは出来ない。もし誰かが入って来ようとすれば不審に思いノックするだろう。
「齋藤教授は香川先生お披露目の教授会でこう言ったそうだ『先生は我が医学部が三顧の礼を持って迎えた大切な逸材だ。御覧の通り異例の若さだがそれを補う才能をお持ちだ。若いからと言って侮らないように。香川先生の言葉は医学部長である私の言葉として受け取って欲しい』とのことだ。
つまり、香川先生の言葉に盾突けばすなわち医学部長に盾突くことになるということらしい。君達心臓外科の人間も大変そうだが、イレギュラーの内科医が外科に在籍するのもこちらとしてはやりにくい。困ったものだ」
眉間に皺を寄せてそう言った。確かに外科に内科医が居れば、内科で違う所見が出た時に困るだろう。内科の混乱も容易に想像出来た。医局内もざわめいた。
――全ては齋藤病院長のゴリ押しのせいか…――
正直良い気持ちはしなかったが、香川先生も巻き込まれた被害者の一面もあるな…と思い返す。
「香川先生の教授の辞令はいつですか?」
この場で一番情報を持っているだろう、内科の准教授に聞いてみた。
「齋藤先生が関係省庁を始め教授会でも活発に動いておられたから早くて今日、遅くても明日だろうと思う。
「そんなに早く・・・」
たまたま隣に居た柏木が言う。齋藤医学部長は隣国の独裁者のような権力を持っているからこそ出来る芸当だった。
――明日から上司になるのか――
内心は大変複雑だった。
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