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第二章 8
「だから、こうする・・・」
淀みなく話して下さった内容はあらゆるリスクが回避されているか、またはリスクが起った時の対処法までが網羅されていて非の打ち所がなかった。
――さすがは天才と呼ばれていることはある――
そう思った祐樹だったが、先ほどから気になっていたことがあった。カルテを押さえる指が不自然に震えている。自分は専門家ではないが、その震えが何に由来するか分かる。精神的なものだ。極度の緊張やストレスなどで引き起こされる症状だ。
香川先生は手術の前だから、緊張しているのだろうか。
以前ビデオで見た、香川先生の手術を思い返したが、彼の手術中、しなやかな手は震えていなかった。
手術前だから余計にストレスがかかり震えてしまうが、本番では強いタイプの人間かと何となく思った。
「なるほど、勉強になりました」
これは本音だった。確かにこの手際の良さで執刀が行われれば、患者の負担もかなり軽減され、生存率は上がる。
「ところで、先生はこの手術何時間かかると予測されていらっしゃいますか」
6時間位だろうな・・・と過去の経験からして思っていた。
「3時間で終らせる予定だ」
澄んだ瞳が挑戦的な光を浮かべて断言する。予想以上に早い。本当に三時間で終らせることが出来るか、自分の目で確かめようと決意した。三時間以上かかれば、思いっきり笑ってやろうと思った。
香川先生の部屋に電話が鳴った。それをしおに、立ち上がろうとした。もう話は多分終わりだろう。長居して今朝の盾突き事件の恨み言をパワーハラスメントされてはたまらない。
「失礼しても宜しいでしょか」
電話の相手は誰か分からなかったが香川先生より上の立場の人間らしい。受話器の話し口を手で押さえ、「もう少し話しが有る」と言った。
着席の許可は出ていないので、――座る場所も与えない気か――余計に頭に血が上る。
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