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優しい女弁護士
うんざりするほど暑い昼下がり、真夏だというのにスーツを着こなした若い女性が、玉のような汗を拭いながらアスファルトを踏みしめていく。彼女の名は本条千夏。ナチュラルブラウンのミディアムロングが良く似合う、見るからに真面目そうな女性だ。背は低いものの、顔立ちは小動物のように愛らしい。
「なんでこんなに暑いかな……」
ため息混じりに呟いたところで目的地である喫茶店が見え、自然と早歩きになっていく。
最終的に小走りで喫茶店の前まで行くと、少し重たい木製のドアをゆっくり押した。涼し気なベルの音が来客を知らせる。
「千夏ちゃん、こっちよ」
奥の席でそわそわしていた中年女性は、千夏を見るなり手招きする。千夏が中年女性の前に座るのとほぼ同時にお冷が運ばれ、千夏はそれを一気に飲み干した。冷たい水はするすると体内を流れ落ち、猛暑の中を歩いてきた千夏の身体を少しだけ冷やしてくれる。
千夏はウエイトレスにアイスティーを頼むと、叔母である藍子を見つめる。静かな美貌を称える色白の顔は、悩ましげな表情を浮かべ、ただでさえ白い頬が更に色をなくして青白くなってしまっている。
「お久しぶりです、叔母さん。梨花ちゃんのことで相談があると言ってましたが……」
「そうなの、まずはこれを見てほしいんだけど……」
そう言って藍子はスマホを操作し、千夏の前に置く。彼女の愛娘である梨花が、若い金髪の男とキスをしようとしている写真だ。男は顔立ちは整っているが、服装や身につけているアクセサリーからして不良っぽい。あんなに真面目だった梨花も彼に影響されたのか、ギャルのような格好をしている。1度も染めたことの黒髪や真面目そうな顔立ちとはあまりにも不釣り合いでアンバランスだ。
(梨花ちゃんがこんなになっちゃうなんて、ショックよね……)
藍子の夫は梨花がまだ小学4年生の頃に事故で亡くなってしまった。それ以来、藍子が女手一つで彼女を育ててきたのだ。寂しい思いをさせないようにと時間を作り、どうしても外せない仕事があれば千夏の家に預け、ひとりの時間を減らしていった。そこまでして可愛がっていた娘が、不良男とよろしくやっているのは、母親として相当ショックだろう。
千夏も梨花を妹のように可愛がってきただけあって、写真を見た瞬間ショックを受けたが、それに比べれば、実際に現場を見てしまった藍子の動揺や悲しみは計り知れない。
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