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(どういうつもり?)
男の行動に困惑していると、彼は千夏に向き直って胡散臭い笑顔を浮かべる。
「おねーさんは俺とデートしよっか。いくらカラオケでも、大声出したらメーワクになるしさ。君はカラオケ楽しむといいよ」
男は千夏の腕を引き、梨花に手を振って部屋を出た。
「どこに行くつもり?」
「俺の家。ネタばらししなきゃ、おねーさんも納得しないでしょ?」
男の言葉に絶句し、カバンの上から催涙スプレーに触れる。
「そんな怖い顔しないでよ。俺、処女を抱くつもりはないから」
「……は?」
殺意を覚えて睨みつけるも、男は相変わらずニヤニヤしたままだ。
「おねーさん真面目すぎて恋愛出来ないタイプでしょ。てか、男に興味無い感じ? ちなみにさっきの子も似たりよったりかな。安心して、あの子も処女のままだから」
初対面の、それも薬物所持容疑の男にズケズケと言われたくないことを言われ、怒りのあまり身体が震える。
「怒らないでよ、言いふらしたりしないから」
気がつけば千夏の右手は、男のみぞおちにあった。
「ぐっ……!? はは、おねーさんいいモンもってるね……ったた……」
男は身体をくの字に折りながらも黙ろうとしない。そんな男に、千夏は拳を振り上げる。
「悪かったって、黙るよ」
男は両手を上げて降参と言うと、沈黙を守ったまま、彼女を自宅まで案内した。
男の家は高級マンションの最上階だ。高級感溢れる空間に緊張しながら彼の部屋に入ると、緊張の糸は一気に緩んだ。
「何これ……」
脱いだ服もゴミも区別がつかないほど散らかっており、広々とした部屋はゴミ屋敷と化している。不用心にも窓を開け放しているおかげが、悪臭がしなかったのは不幸中の幸いと言えるだろう。
「汚いところだけど狭くはないからあがって」
靴を脱ぐと、千夏はつま先立ちで上がる。潔癖症ではないが、こういう部屋を見ると、昔テレビで見たゴミ屋敷を掃除する番組を思い出す。ダニがたくさん住んでいる埃だらけで、沸いた虫にまみれた小物を拾おうとする住人にぞっとしたものだ。
そんな千夏に気遣うことなく、男は小部屋のドアを開ける。スペースからして衣装部屋なのだろうが、そこに衣類は一切なく、小さなテーブルと大きめの収納ボックスがあるだけだ。この部屋だけはきちんと片付いており、千夏はようやく足の裏全体を床につけることが出来た。
「この中にあの粉の正体が入ってるよ」
そう言って男は、千夏の前に収納ボックスを差し出す。箱を開けてみると中には小さなすり鉢に銀紙の束、小さなストローとフリスクとラムネ。そして計りが入っている。
「何これ……」
「フリスクとラムネを粉状にして計って、そのストローと一緒に売ってる。10グラム五千円。ドラッグにしては安いでしょ?」
茶目っ気たっぷりな男の言葉に、頭が痛くなってくる。
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