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〜 颯 視点続 〜   ゆっくりと歩きながらカプセルの中にいる獣人を見ていれば、男は何やらメッセージでも届いたのだろう   手首に付けた腕時計を押し、近くのモニターに座る男へと近づく 「 貴方達が此処に来た理由が分かりました。考えていたんですよ、態々見せ付けには来ないだろうって 」 「 ……今は来るんじゃ無かったと後悔してるがな 」 出来れば今すぐに瑠菜を連れて帰りたいと思うぐらい、此処にいれば気分が悪くなる事ばかりを聞く 「 そう言わず。ルナのお腹に生命反応が有りました 」 「 !! 」 「 此方のモニターにデータを転送して貰えますか? 」 「 はい 」 男の言葉に、やっぱりいたのか!って驚きと嬉しさが交じるが、態々言う辺り何か引っ掛かる点が有るのは察する事ができる 短命だと言われた瑠菜の子供だ、そう簡単には生まれないだろう 転送された大画面のモニターの前へと移動すれば、写ったのは腹部の中か 婦人科で見るよりももっと、精密であり立体だと思った 俺の目の前には、紛れも無く、人の姿にはまだ見えない胎児の姿があった 「 獣人は繁殖の能力が無いのが普通なんですが、稀に妊娠する個体もいるんですよね 」 「 ……稀にか 」 「 えぇ、我々の世界に馬とロバを交配させて、ラバが不妊なのはよく聞く話なのでご存知ですよね? 」 「 嗚呼、ウマとロバの染色体数が異なるからだろ 」 そんなの学校の授業でも習うことだろう 見た目は似ていても、組み合わせて産ませた別の種類には 染色体数といって、遺伝情報の発現と伝達を担う生体物質の数が異なる  互いの持っている情報が違えば、子孫を残す機能に影響が出るとされている 「 はい。ですが、発情期は存在しますし、理論上は妊娠は可能なんですよ。胚移植したように自然に妊娠することも稀では有るんですが、あるんですよ 」 「 何が言いたい? 」 「 つまり、獣人も稀に妊娠するんですよ。特に雌は発情期が存在しますし 」 「 発情期…… 」 その言葉に、瑠菜の行動を振り返れば発情期らしいように、ずっと行為を求めていた時期があった事に眉間にシワは寄る 「( あの時か!! )」 ひたすら毎日、時間問わず求められて 俺の精子が尽きて体力的にも底をついたんじゃ無いかってぐらい求められてた時がある 確かに中出ししたタイミングと、その時は重なってるから納得は出来るが…… 「 その発情期に胚移植したみたいになれば、妊娠するのか 」 「 えぇ、そういう事です。なのでとても興味深いです 」 「 妊娠の経緯は分かった。……無事に生まれるのか? 」 もう少し妊娠の仕組みについて語りたいような男だが、そんな確率とか奇跡とかは興味ない 既に瑠菜は妊娠してるのだから、俺が思うのはちゃんと無事に生まれるかって事だ 瑠菜もよく腹を撫でて楽しみにしてるぐらいに、子が生まれてくる事を家族で望んでる その為に、此処に来たんだ 「 ……そうですね 」 渋い表情を見せた男は、モニターの画面を変えた 写り出すのは胎児ではなく、瑠菜自身の体内のような映像だ 「 子供を選べば生まれるでしょう 」 「 は?どういう事だ? 」 いや、この流れだ……態々聞かなくとも答えが出てるのに、俺は聞いてしまう 聞いて納得しなければならないような気がするからだ 「 獣人に自然分娩出産が成功した事例はありません 」 「 は? 」 「 妊娠までは可能なのです。けれど、愛玩用であり、元々肉体や体調面では弱い獣人が、痛みに耐えれる程の力は無いんですよ。大半は妊娠しても流産させるか、途中で帝王切開にて取り出す、または生ませようとして母体共に亡くなるかのどれかなんです 」 彼は続けた、瑠菜の寿命が近い為に態々母体を優先して子供を取り出す必要はないと… そして、何より理不尽だと思ったのは試験管で生まれた獣人であり、その子供が母体の中で成長して、生きて産まれる事はないと…… 結局、妊娠してある程度は大きくなるがそれ以降は亡くなるんだ 地上に出た瞬間、胎児の肌は空気中の酸素を取り込めず、肌が馴染む前に息を耐えると…… 「 なんだよ、それ…… 」 「 獣人を地上に歩かせる時も、何度も外気との耐性を付けるために時間をかけて空気に慣れさせ、また液体の中へと戻します。 失敗と言われる子達の中には、見た目は完璧でもその…外気と適用出来なければ亡くなってしまうんですよ。 それだけ、生まれたばかりの獣人の肌は弱いのです 」 子を産む為に力を絞ってた獣人も亡くなり、折角産んだ子供も耐性が付けられないまま外気に肌が辺り腐ったように死ぬのか そんなの、なんの為に瑠菜は妊娠したんだ 「 何か方法はないのか! 」 「 無いですね 」 「 っ!! 」 「 ですが、一つだけ試してみる価値がある事があります 」 こんな命を商品としか思わない奴に、すがるのは御免だが…何か一つでも方法があればそれに手を伸ばすのが人間の性だろう 瑠菜に聞く前に、話は進んでいくのは申し訳無いがな…… 「 それは、なんだ 」 「 今の段階で胎児を取り出し、他の獣人のようにカプセルの中で育ててば、耐性も付けれ、母体の負担にならず成長出来ると思います 」 「 ……出来るのか? 」 「 此ればかりは事例がないのでやってみなければ分かりません。ですが、ルナを死なせたくないと望む貴方の強い意思は受け取りました。最初に言いましたよね? 『 御前等、研究者だろ。その為に研究してんじゃないのか! 』と……我々は研究者です。やってみせましょう 」 腹を痛めて子を産めば、それだけ母親は愛情を向けられると何処かで聞いたことがあった 瑠菜もきっと自然分娩かと思っていたが、生むことが命に関わるとするなら、 俺はどんな方法でも、いいと思った 胸元へと片手を置いて、自信気に告げ 周りにいた研究者達もまた其々に頷いた 「 ……瑠菜と話してもいいか。此ればかりは俺の独断では出来ない 」 「 えぇ、もちろん。もうそろそろ目が覚めると思いますので…それまで自由に見て回ってくれて構いませんよ。此方はもしもの為に話し合いを行います 」 きっと成功率やら考えるのだろうが、瑠菜に話してもいいと思った… だが、自身が短命だと知ればどう思うだろうか? その辺りは、伏せたほうがいいのか…… 「 …その前に一つ、名前を聞いてもいいか。俺は久遠 颯だ 」 此処まで話をして名前が無いのは不便だ それに、瑠菜が気に入ってる相手なら知っていても良いだろう 彼は白衣を揺らし、此方を振り向けば口角を上げた 「 此処の研究者に名前は有りません。強いて言うのでしたら…ネコ科担当なのでガット()とでもお呼びくださいな 」 まるで、今考えて名乗った様子だが無いよりはマシか…… 「 分かった……ガット。俺は瑠菜の元に行く 」 「 えぇ、後程伺います 」 獣人に名前が無いように、研究者達はお互いに呼び合わないのか 考えてみれば、研究ばかりしてる連中に名前なんて使う時すら少ないだろうな 入ってきた時に思った不気味な感覚は、 人間味が無い辺りか……生活面でも、態度もだ 乗ってきたエレベーターに乗り込み、ボタンを押し上の階へと行く 扉が開き、辺りへと視線を向けても研究者が見てるのは育児ルームにいる獣人だけ お互いに干渉してる様子は無い 「 瑠菜…… 」 オペ室から移動した、瑠菜は別の個室にて運ばれていた 何気なく此処の部屋にいることを研究者達は視線で合図した為に迷う事は無かった 個室に入り、白いベットと小さい丸椅子のみが置かれた、急遽設置した雰囲気に溜息は漏れる それより、瑠菜が心配だと横へと近付き顔色を見れば思ったより悪くない 「 車に疲れたか。山道入ってから休憩無かったもんな……ごめんな 」 前髪に触れ、そのままそっと頬を撫でれば人肌と体温にどこか安堵する 冷たくなった息をしてない獣人を見てきたせいもあるだろうが、 短命だと聞いた後では心配になる 「 ……俺は最後まで傍にいるからな 」 例え子が助からなくとも、瑠菜が最後まで笑って過ごせるように努力はするつもりだ だが、そうならないのが一番いいのだがな…… 丸椅子に座り、そっと瑠菜の手を掴んだまま 手の甲を親指で撫でるように触っていれば 彼女の指はピクリと動いた 「 ん…… 」 「 ……目が覚めたか? 」 「 ん……?パパ……。ぅん……。なんか、樹パパ達と遊んでる夢を見たよ 」 薄っすらと開いた瞼と共に、瑠菜の左右に違う瞳を見れば彼女は一度目を閉じ、夢を思い出すような素振りを見せ、僅かに楽しそうに笑った 「 皆いて……瑠菜も、そして…顔は余り覚えてないけど……ぼんやりと、赤ちゃんもいたよ 」 「 そうか、未来の夢を見たんだな 」 「 未来……?うん、そうかも……。赤ちゃんと一緒に5人で暮らしてる未来だよ 」 「 嗚呼、きっと近い内に叶うさ 」 嬉しそうに話す瑠菜に俺の口からは、言えなかった もう残り時間が短いから、子供を諦めるか、それとも確率の低い摘出して獣人のように育てるか…… 不器用に笑った俺に、彼女は気付いたのか握っていた手を離し、そっと頬へと伸ばした それに合わせるよう僅かに身体を寄せれば、指は頬に触れる 「 颯…悲しそう。どうしたの……? 」 「 そんな風に見えるか?なんでもない、なんでもないんだ。ほら、もう少し休め……帰りは遅くてもいい 」 「 そっか……ん、わかった……もう少し、寝る…… 」 嗚呼……俺は、最後まで言えないかも知れないな
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