後日談

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後日談

流海(るか) 視点 〜 物心付く頃に母さんは俺に前ぶりも無く言ってきた ″ 私、獣人なんだ ″ 一瞬、なんの冗談かと驚いたけど 母さんの姿が獣耳と尻尾が生えたのに変わったのを見て、俺が生まれる頃に廃止になった 獣人だったんだと知り、それが後に理解出来る様になるにはそんなに時間が掛からなかった 「 久遠 流海。自己ベストは2m20……は?世界大会行けるだろ…。ほら、やれ 」 昔から運動神経と反射神経はクラスメートより良かった ちょっと運動出来る男の子、なんて事は次第に周りに疑問を抱かれるほどその能力は成長につれて発揮していた 小学生はいつもリレー選手、誰にも負けたことがないほど短距離走では一位を誇り、小学生部門の大会では毎年優勝していた 5年生の時の跳び箱は、15段を軽々クリアしてから周りに超人と言われ初め 中学に入る頃には沢山の強豪校からオファーが来た 飽き性だから色んなことを気まぐれにやって 高校生になり、走高跳を初めた結果 1年ぐらいで自己ベストの2m20cmを… 今、クリアした 「 よっしゃぁぁあ!!余裕っしょ!! 」 「 いや、世界記録が2m45cmで、日本記録が2m35cmなのに。御前は…2m30cmって……高校2年生だろ?体育教師の俺の自己ベストを軽々超えてるなんて 」 「 先生の自己ベスト1m90cmだろ?俺はそれ、初日でクリアしたんで。さーせん。 んー、やっぱり走高跳もつまんないな…… 」 母さんが猫科であり、脚力に優れていたらしく、俺はジャンプ系の競技は得意だった 短距離走なら、日本男子の記録を去年更新してるし、そろそろ運動系はつまらないと思ってる 「 つまんないって……この調子だと世界大会出れるぞ!?寧ろオリンピック!! 」 「 いやー、血液検査や尿検査の時にドーピングとか言われたら嫌なんで遠慮します 」 「 は?どういう事だ……? 」 日本大会には出場しても、何とか誤魔化せるしそこまで疑うものはいないけど オリンピック系の世界大会なら、きっと獣人の血筋が入ってる事はバレてしまう そうなると、俺の運動神経がいい男子!なんて肩書は崩れるだろうな   そうなのはゴメンだから、俺はそこまで行く前に部活を変える事を考える 「 あー、あちーー…… 」 声の以上に大きな体育教師から逃げて、2月になるものの汗をかいた身体を冷やすため 手洗い場の蛇口を捻り頭から水をぶっかける 代謝がいいから直ぐに暑くなるんだよな 「 ふっはー!さっぱりした!! 」 顔を上げ軽く首を振って髪の滴を飛ばすように振れば、少し離れた場所から声が聞こえてきた 「 ふふっ、自己ベスト更新おめでとう。辞めちゃうの? 」 「 へっ?あぁ…マネージャー見てたんだ 」 陸上部のマネージャー 小柄で美人で可愛くて、陸上部の男子達の間ではアイドル的な存在である 190cmはある俺の前に来たら40cmほどの身長差はあるぐらい小さいんだよな でも、それがまた可愛いと思うのは男心 「 うん、見てた。ほら、タオルどうぞ 」 「 あ、ありがと…… 」 真っ白なタオルを渡され、受け取ってから顔に当てれば柔軟剤の香りがした 一瞬、どこのメーカーかな?と考えながら密かに匂いを嗅いでから髪を拭く 「 いいよ。そういえば、流海くんの髪は地毛なんだ?綺麗だね、染めてるのかと思ったよ 」 「 嗚呼、よく言われるんだけど……下の毛も2色なんだぜ。見る? 」 「 えー、それは遠慮する! 」 「 ははっ、遠慮しなくともー 」 母さんの地毛が銀髪で、父さんは黒髪だった お互いに染めてるから地毛がイマイチ分からなかったらしいけど、俺を見て納得したと言ってた 黒髪に銀のメッシュが入ったような髪ならば、自分達の子だと認識するだろうな この髪色で色々いちゃもんを付けられたけど、俺は特に気にしてなかった 黒に近いブラウン色の短髪を揺らし、真ん丸い目で笑うマネージャーを見ていれば、彼女は見上げてきた 「 なぁに?学園一の、イケメン君がマネージャーに見惚れたとか? 」 「 嗚呼、いや。母さんの方が綺麗だから女の子に見惚れることはないぜ。タオルありがと 」 「 えっ、なにそのマザコン発言!! 」 小さい頃、母さんの旦那さんになりたいと言って、 何度、父さんに拳骨を食らったか ニコニコと笑う母さんの表情は、俺が見てきた女性の中で一番可憐で美しいと思った だから、何となくこの外見のせいでモテても 女の子に興味がないのは、世界一綺麗な母親を見てたからだろうなぁ 「 朝練も終えたし、教室に行くかな 」 体操服にジャージを着たまま靴箱へと戻り、ロッカーを開ける 「 ………… 」 雪崩のように落ちてくるバレンタインのチョコレート ラッピングされたり箱に入ったままのを見て溜息が漏れる 「 中学の頃から慣れてるけど……靴の匂いとか気にして欲しい……はぁ…… 」 いつ洗ったか忘れた上履きの入ったロッカーの中によく入れようと思うな その精神がすげぇって感心しては、部活鞄へと詰めて靴箱を取りだして履き、教室へと行く 「 よっ、モテ男。今年のチョコは何個だよ? 」 「 それは、家に届いたのもカウントしていい?後、男からもあるんだけど 」 「 そこは…女子限定で 」 女子の中で直接話し掛けて来る人はマネージャーと、このクラスの中では顔のいいとされている子達だけ 男子は普通に話し掛けて来る為に気楽だと思う 一番後ろの中央部分に設置された、自分の席に部活鞄を置けば、仲のいい茶髪の友達と、黒髪に眼鏡を掛けた二人は問答無用で鞄を開き探り始めた 「 13日目で24個ですか、これは当日になったら増えますね。これは高そう、いただきます 」 「 すげぇ、ラブレターカード付き。いただきー 」 数を数えてから雑に入れ物を開け食べるのを横目で見てから、取り敢えず入ってるラブレターは目を通すことにしてる 「 なぁ、下の名前だけ書かれても誰か分かんねぇよな? 」 「 わかる!でも、送った人からすりゃ分かると思ってんじゃね?これ、市販のに文字書いただけじゃん。うめぇけど 」 「 なにかのミステリー暗号だったり?名前で当ててね。みたいな。こっちも悪くないですよ…モグモグ 」 「 まぁ、名字含めて堅苦しく書かれても怖いけどな…… 」 ちょっと硬い丸められたチョコレートをお菓子の感覚で口へと含みながら、メッセージカードを読み読み終えた物はファイルに挟む この二人が何気なく他の男子にもチョコレートを配るから、帰る頃に手元に残るものは無い 作ってくれたのは有り難いが、食べきらないから諦めてほしい 「 ははっ。相変わらず流海はモテるなぁ〜 」 「 笑い事じゃないって…… 」 昼飯すら食えないほどチョコレートを食って家に帰れば、俺の帰る時間に合わせて作られた料理がテーブルに並ぶ 祖父達と一緒に暮らしてたのは小学生の頃まで、それからは強豪校が近いところに引っ越し、今の此処に至る エプロンを外しケラっと笑った久遠 颯 少しシワが増えたが、一流社長として働きながら家庭のこともしてる出来る俺の父親だ 「 そんな事ないよ。流海がよく私の血を引いてるって事は嬉しいんだからさ 」 「 母さんまで…… 」 そして、キッチンから出てきたのは白髪の長い髪を一纏めに束ねてポニーテールにしてる、久遠 瑠菜 俺の母親であり、最後の獣人だ 獣人への反政府である、動物愛護団体がデモを起こし、研究を中止させ、 販売や繁殖への取り組みは一切無くなった 他種族を掛け合わせて、命を創り出す事は自然の通りと反してるという結果になった そんな事、改めて言わなくても分かること…なんて、父さんは言ってたな 研究者であるガットに短命だと言われたが、獣人らしい部分は耳と尻尾、後は容姿だけで 寿命やらは人間寄りだったらしく、普通に長生きしてる それでも、定期的にガット博士の元に健康観察に行ってるけどな 俺も、そして……もう一人もまた一緒に…… 「 おにーちゃん!ルルちゃんのチョコはー? 」 「 あぁ、悪い…瑠優(ルル)のチョコ…ダチに食われた。明日は持って帰るな 」 「 むぅ、ルルちゃんのチョコ!! 」 「 駄目だろ、瑠優。今日、家に届いた分はママと平らげたらしいじゃないか。虫歯になるぞ 」 「 ルルちゃん、ならないもん!! 」 駆け寄ってきて直ぐに頬を膨らませた可愛い子は、歳の離れた妹だ 久遠 瑠優、父さん達が次の子は出来ないかも知れないって諦めてたときに出来たらしく、俺と同じ方法で生まれてきた 愛情を注がれるほど美しく育つ獣人らしい性質と、俺とは真逆に銀髪が多く黒いメッシュの入ってる子だ 成長速度は俺と同じく人間寄り、 母さんの血は運動神経と気まぐれな部分ぐらいしか入ってないな 「 ふふっ、瑠優ちゃん。明日は沢山あると思うからまたママと一緒に食べようね? 」 「 たべるー! 」 「 いや、母さんも一緒にって……。はぁ、明日はちゃんと持って帰るさ 」 母さんと父さんの馴れ初めを聞いたことはあったが、出会いや愛し方なんて其々だと思っていた 現に獣人としての外見は無いものの、愛情を注がれるほどに″美しく成長する″点では、俺は自覚してるほど美形に育った それは二人が小さい頃から愛情いっぱいに育ててくれたからだろうなって思う そんな二人だからこそ、過去なんてどうでも良かった 「( モテ過ぎるのは嫌だけどな…… )」 「 わ!ルルちゃん、ネコさんハンバーグすき!! 」 「 ふふっ、たくさん食べてね 」 「 爺ちゃんみてぇ…キャラ弁みたいなハンバーグなんて 」 「 言わないでくれ……父に似たなんて…… 」 不器用な母さんがこんなハンバーグ作らないだろうなって思ってたけど やっぱり父さんが、あの孫を溺愛しすぎる祖父母達を思い出すと苦笑いが漏れる まぁ、今でも両親のように仲がいいから、 その様子はみたいけどな
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