始業式

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はあ、疲れた。 追いかけてくるかと思いましたが、後ろを振り返っても双子はついてきていませんでした。 迷惑をかけているといけないので、エースくん宛てに、適当に追い払っておいていいよ、というメッセージを送っておきました。 さてと。 さあ、双子のせいで昼休みも残りわずかですし、教室に向かいましょうか。 中庭に出てみると、春らしい暖かい空気と日差しが体を包みます。 んー気持ちいい。昼寝でもしたいくらいです。 ...まあ、こんな大勢の視線の中じゃ満足に寝られないでしょうけど。 さっきの食堂での騒ぎがもう既に広まっているのか、いつも以上に周りからの視線を感じます。 最近落ち着いてきたと思ってたんだけどなあ。 っていうか、情報の伝達が速すぎませんか? ついさっきの出来事だと思うんですけど。 とりあえず、これ以上ここにいても視線を集めるだけだと思ったので、とっとと退散することにします。 廊下を歩いていても、いつも以上に感じる視線。 いつもと何が違うのか気になって、少し周りをうかがってみると、見慣れない顔が多い気がします。 そこから視線を下に移し...ああ、そういうことか。 ネクタイの色を見て、見慣れない顔が新入生だということに気付きます。 どうやら、視線が多いのは、さっきの出来事だけが原因じゃないみたいですね。 教室に近付いていくにつれ、だんだんと人が多くなっていく気がします。 なんでしょう。生徒会メンバーでもいるんでしょうか。 でも、さっき食堂で会ったばかりですし、放課後に説明すると言ったので、こんなすぐに会いに来るとは思えません。 「あ、君島来た」 「え?」 教室の入り口付近にいたクラスメイトと目が合うと、手招きされます。 それに気づいた周りの人たちは俺の目の前から退き、道が出現。 おお。これ、なんて言うんだっけ。 あれだ。モーゼ。 っていうか、俺のこと待ってたの? 不思議に思いながら少し足を速めて近付くと、「お客さん」と教室の中を示されました。 仲を覗くとお客さんと目が合いました。 「あ」 「ちょっと、君島くん⁈発言には気を付けてって言ったよね⁈」 さっきの騒ぎは何なの⁈と近寄ってきて、俺のことを揺さぶるお客さん。 まあ、俺には効かないので、相手が1人で揺れてます。 そして、情報が伝わるのが相変わらずはやい。 「あ、あの?」 「噂の双子が弟ってどういうことなの⁈」 しかもあんな大勢の前で暴露するとか何考えてるの⁈と揺れる相手は、俺の親衛隊の隊長さんです。 でも、あんまり敬ってくれたりはしません。 まあ、俺もそういうことは求めてないので良いですけど。 近藤くんって言うんですが、俺の中では『クラスメイトくん』って呼んでます。 本名を知る前に『クラスメイトくん』で認識しちゃったんで、そのまま心の中で呼び続けてます。 本人に直接言ったことはないですけど。 「しかも、『お姫様』って呼んだって聞いたけど⁈」 「あー、呼んだっけ?」 呼んだかなあ。覚えがありません。 「例の話、忘れたの?」 「例の話?双子のこと?」 「違う違う。そっちじゃなくて、『騎士様に合うのは』っていう質問の話」 「あー。そっちね」 そうそう。そういえば、そんな話もありましたね。 なんか、よく分かりませんけど、『騎士様に合うのは』っていう質問が流行っているそうです。 『騎士様』っていうのは、俺のこと。自分から言い出したわけじゃないですよ? その質問の答えの選択肢はいくつかあって、例を挙げると『アイドル』『エース』『王子』がある。らしいです。 一応説明しておくと、『アイドル』=園川先輩、『エース』=エースくん、『王子』=天光くん、です。 なんでこんな質問が流行っているのかは分かりませんが、進級して新しい友達を作る時のきっかけとして重宝されている、らしいです。 さっきから「らしい」と言い続けているのは、俺もよく知らないんです。 全部、クラスメイトくんから聞いた話なので。 その質問のことを知らずに、茶髪くんに「騎士の相手と言えば、どんな人だと思う?」って聞かれて、「騎士はお姫様を守るものじゃない」って答えたんです。 そしたら、それが『騎士様』に『お姫様』=特定の相手がいることになっちゃうんですって。 よく分かんないよね。 そんな状況で、俺が双子のことを『お姫様』って呼んだことを、クラスメイトくんは怒ってるらしい。...多分。
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