始業式

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はーい。あっという間に放課後です。 俺は今から生徒会室に向かい、例の双子について説明をしなければなりません。めんどくさいなあ。 なーんにも考えていませんでした。 まあ、なんとかなるでしょう。 ...ちょっと心配になってきました。 クラスメイトくんを連れていこうかな。 とはいえ、もう生徒会室に向かっているので遅いんですけどね。 歩きながら廊下の窓から外に目を向けると、校庭が見えます。 歩きながら眺めていると、校庭の入り口から、小さな二つの影が飛び出していきました。 ん?あれってもしかして...。 「うわっ」 「おっと」 校庭に気を取られていて、前から走ってきた人とぶつかってしまいました。 さっと背に手をまわして、倒れないように支えます。 大丈夫ですか?と顔を覗き込もうとして、予想外の人の顔に驚きます。 「あれ、園田先輩」 「あ、奏夜くん」 目を丸くして驚いているのは、日本人形のようなさらさらな黒髪の、小柄な人物。 名前を知るまで、俺が『大和撫子さん』って呼んでいた、風紀の副委員長さんです。 あだ名は『風紀の華』って言うんですって。 俺とは違い、とてもしっくりくるあだ名だと思います。 って、それは置いておいて。 「どうしたんですか?」 ちょっと常識外れのところがある委員長さんのストッパーで、優等生な園田先輩が廊下を走るだなんて。 何かあったんでしょうか。 「えっと、あの。ちょっと、人を探してて」 「あー。もしかして、あれのことですかね」 と窓の外を指さします。 え?と園田先輩は窓に駆け寄り、目を見張りました。 例の2人を見つけたみたいです。 俺のことを振り返り、何も言ってないのになんで分かったのか、という顔をする園田先輩。 「中学の頃も、毎日追っかけられてたので。今回もそうかなと思いまして」 「そう、なんだ。お互い大変だね」 私も、中学の頃は葵のことでいろいろあったからね、と苦笑いしています。 そう。この方も苦労してるんです。主に園川先輩のことで。 と言いますのも、園田雅先輩と園川葵先輩のお2人は、いとこ同士。 そのせいなのか、園田先輩は園川先輩のことになるとちょっと、暴走気味ですけど。 「あいつら、今回は何をしでかしたんですか?窓割りました?それとも花瓶?あとは候補があるとしたら、つまみ食いですか?」 「えっと、お菓子を取られちゃったんだよね。失敗作だから、食べられちゃ困るんだけど」 と眉を下げ、園田先輩は困り顔です。 こう見えて、でもないか。園田先輩はスイーツ男子です。 俺と園田先輩は、時々、2人でスイーツ会を密かに開催している間柄でもあります。 俺相手に、そんなことまで気にしなくてもいいのに、ラッピングなんかにも凝っていらっしゃいます。 本人が楽しそうなので、このままでも良いかとそのままです。 「そんなの、放っておいていいですよ」 「え?でも」 「それで、園田先輩は困らないんですよね」 「うん」 「なら、気にしないでください。あいつらの自業自得なんで」 そうかな、とまだ納得していなさそうな園田先輩。 「あ、そうだ。あいつらのことが片付きましたし、先輩、今お時間あります?」 「ああ、うん。一応。あの子たちのこと、本当に放っておいて良いなら」 「良いんです良いんです」 じゃ、ちょっと付き合ってください。と園田先輩の手を取ります。 すると、ぱっと驚いた顔をこちらに向けてきました。 え?え?と困惑してばかりの園田先輩の腕を引き、走り始めます。 ちょっと楽しくなってきたかも。 不思議と、走りながら笑えてきました。 すると、背後から 「あのっ、奏夜くんっ、廊下はっ」 「走っちゃダメなんですよね?でも、今だけちょっと見逃してください!」 「ええっ⁈」 「急いでるんです!」 はやく生徒会室に行かないと、面倒なことになりかねませんから。 「ねえっ、どこにっ、向かってるのっ⁈」 「生徒会室です!」 だんだんと、スピードが落ちていく園田先輩。 あんまり体力ないみたいです。 俺が先輩のこと抱えて走った方が速いかな。
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