1516人が本棚に入れています
本棚に追加
「遅いよ、奏夜。っていうか、...なんで雅がいるの」
じとっとした目を俺の腕の中に向ける園川先輩。
そこにはぐったりとした園田先輩が。
結局、後半は俺が抱えて走りました。
だって、校舎が広過ぎるせいで時間がかかっちゃいますから。
「双子の話をするのに、風紀の方もいた方が、一度に済んで楽かと思いまして」
よいしょっとソファにおろすと、ううう、と呻く園田先輩。
「奏夜くん、足速すぎ。ジェットコースター乗ってる気分だった」
「すみません。急いでたもんで」
グロッキーな園田先輩を見てると、申し訳なくなってきました。
でも、後悔はしてません。
園川先輩を見た感じ、あと少し遅かったら鬼電確実っていう雰囲気でしたもん。
「なんで、風紀がいたほうがいいのですか?」
と、紅茶を目の前に置きながら、問いかけてくる副会長さん。
相変わらずのクールビューティーさと言いますか。
中身はちょっと残念ですけど、綺麗な人ですね。
お茶のお礼を言い、いただきますと紅茶を一口。おいしい。
「あの2人、すごいいたずらっ子なんですよね。ご迷惑をおかけすると思うんですよ。なので、先に説明しておいておいたほうが良いかな、と」
まあ、思いついたのは、ついさっきの話ですけど。
「それで?説明してくれるんでしょ?」と園川先輩が俺の腕を引き、園田先輩の向かいのソファに座らせられます。
すると、空いていたところに続々と座り始める生徒会メンバーの皆様。
そして俺に集まる視線。
そんなにあの双子のこと、気になりますか?
でも、説明って言ってもねえ。
「あいつらは義理の兄弟です」
としか言いようがありません。
説明が終わってしまいました。さあ帰ろう。
...とはなりませんよね。知ってた。
「お互い連れ子ってこと?」
「はい。俺は母親の連れ子で、向こうが父親の連れ子です」
容姿が真逆と言っていいほど違うので、今までもいろいろ言われましたね。懐かしい。
今となっては、それも良い思い出です。
「奏夜の実のお父さんは?」
「幼い頃に病気で。でも、それが不幸だと思ったことはありませんよ」
にこっと笑ってみせると、しんと静まり返る生徒会室。
そんな、気にするようなことでもないと思うんですけどね。
「でも、向こうは離婚なんです」
「え?」
「あいつらのいたずらは、かまって欲しいっていうサインなんです。だから、なるべくなら付き合ってやりたくて。ご迷惑をおかけすると思いますが、よろしくお願いします」
このお願いは、ここにいるメンバーに、何のメリットもありません。
何を都合のいいことを言っているんだ、とバッサリ切り捨てられてもおかしくないんです。
それを分かった上で、頭を下げます。
「...羨ましいね」
「え?」
思いがけない言葉に思わず顔を上げると、園川先輩と目が合います。
少し寂しそうな、複雑そうな表情。
「確かに。奏夜くんに、そんなに思ってもらえる弟くんたちが羨ましいよ」
「そうですね。それにすごく優しいですし」
「本当、良いお兄ちゃんだね」
「もし、自分にこんな優しいお兄ちゃんがいたら、お兄ちゃん子になってると思います」
「は?そんなことあり得ないから」
会計さん、副会長さん、天光くんに続いて園田先輩が言った言葉に対し、瞬時に噛みつく園川先輩。
はぁ...と園田先輩が大きくため息をつきます。
そのわざとらしいため息に、園川先輩がピクッと反応しました。
え、ちょっと嫌な予感がします。
「『もし』と言ったでしょう、『もし』と。あくまで仮定の話です」
「そんなこと分かってる。でも、仮定の話でもあり得ないって言ってんの」
「話が通じませんね。ちゃんと脳みそ詰まってますか?」
「は?馬鹿にしてんの?喧嘩なら買うけど?」
お互いの身体から、ブリザードが発生しています。寒い寒い。
変なところで似てるんだよなぁこの2人。
血筋なんでしょうか。
あと、この2人、割と質が悪いですよ。
単品なら、落ち着いているんですが、セットにした途端、喧嘩せずにはいられないみたいです。
しかも、2人とも強いですからね。
園田先輩は武道を習ってたらしいですし、園川先輩は物理的に力が強いです。
以前は、園田先輩が園川先輩を抑え込んでの勝利でしたが、今回はどうなるんでしょうか。
なんて、遊んでる場合じゃないですね。
はやく止めないと。
生徒会室が氷漬けになっちゃう。
最初のコメントを投稿しよう!