始業式

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始業式

「去年も俺のクラスだったやつもいるが、よろしくな」 じゃ、適当に並んで始業式行くぞー、と緩い担任。 まあ、俺は、去年もこの人が担任だったんですけどね。 見た目は爽やかスポーツマン風、実際は数学教師。 立派な見た目詐欺です。 ここの教師は、そういう人が多いように感じます。 見た目がホストみたいだけど、実際は真面目。とか、 見た目は儚げ美人なんだけど、実際は職務怠慢教師。とか。 「ほら、行くぞ」 考え事をしていると、後ろから、ぺしっと頭を叩かれます。 良い音がしたなあ。全然痛くありませんけど。 「なに?エースくん。また俺と一緒のクラスになれて嬉しいの?」 「なっ、馬鹿。そんなこと一言も言ってねえだろうが」 と、今度はバシンッと背中を叩かれました。 またまた良い音がしました。今回はかなり痛かったです。 背中をさすりながら振り返ると、爽やかなイケメンが。 この人は、見た目通りのスポーツマンです。 「っていうか、その呼び方は変える気ねえんだな」 「ん?『エースくん』呼びのこと?」 「ああ」 「良いじゃん。分かりやすくて」 バスケ部のエース、だから『エースくん』 良いと思うんですけど。 「この呼び方続けるためにも、エースの座は守ってよ?」 「言われなくてもそのつもりだ。『騎士様』」 「...エースくんまでその呼び方する気?」 今、ぞわってしました。ぞわって。 「良いじゃねえか。かっこいいあだ名だろ。『騎士様』」 にやにやしながらこちらを見てくるエースくんに、少し殺意がわきました。 他人事だと思ってこのやろ。 「お前ら、はやくしないと置いてくぞー」 担任の声が聞こえてきました。 はーい、と軽く返事をし、席から立ち上がります。 面倒だから、このまますっぽかしたいなあ。 「そんなことしたら、生徒会のやつらに絡まれて、余計に面倒なことになるだろ」 あれ、心の声漏れてた? でも、エースくんの言った通りなので、大人しく式にでることにします。 俺たちが廊下に出ると、それを確認した担任が出発し、その後ろを生徒たちがぞろぞろと歩き始めます。 「そーやっ」 「おっと」 それに続こうとすると、名前を呼ばれ、腰のあたりにとんっと衝撃を感じました。 俺にはあまり被害がないんですが、相手がぶつかった反動でよろめくのを、そっと支えます。 「クラス、いっしょだね」 ふふっと嬉しそうに俺を見上げてくるこの方、出席日数が足りない為、留年していらっしゃいます。 年上だけど、同級生です。 正直、年上に思えないんですけどね。 俺は勝手に『子犬さん』って呼んでます。 これは心の中で、ですけど。 うるうるした黒目の、人懐っこさそうなかわいい顔をしています。 背も小さめでミニサイズ。かわいい。 子犬さんから溢れ出るアニマル感に癒されていると、ぐいっと腕を強く引かれました。 「ちょ、エースくん?」 「さっさと行かねーと、始まっちまうぞ」 「あ、うん」 後ろを振り返ると、ぴょこぴょこついて来る子犬さんの姿が見え、思わず笑みがこぼれます。 すると、それがふざけているように見えたのか、更に強く腕を引かれました。 エースくんは少し離れてしまった前の集団に追いつこうとしているのか、かなりの速足です。 エースくんは背が高いですが、俺も同じくらいの身長の為、ついていくのはそこまで苦ではありません。 が、背の低い子犬さんは大変でしょう。 とても気になりますが、振り返るとまたエースくんの機嫌を損ねてしまいそうなので、前を向いて歩きます。 「ふっ」 「なに笑ってんだお前」 「いや、なんか楽しいなって」 「...そうかよ」 さあさあ、楽しい2年生の始まりです。
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