始業式

5/13
前へ
/118ページ
次へ
「お、珍しいな。今日は1人で登校か」 「おーい騎士くん。おっはよー」 朝、廊下を歩いていると背後から声を掛けられます。 振り返ると、昨日のバスケ部二人組が、こちらに向かって歩いてきます。 「それとも、もう例の人を送り届けてきたのか?ご苦労だな」 「そっちこそ、朝練?朝から汗かいてご苦労だね」 俺には、わざわざ早起きしてまで運動をしたいとは思えません。 「例の人って、園川先輩のこと?」 「他に誰がいんだよ」 他に...誰もいないか。 「もしかして、部屋に新しいヤツが入ってきたのか?」 「ん?いやいや、うちのメンバーに変更はないよ」 そうか。昨日が入学式だったから、新入生はもう寮に入ったんですね。 俺の部屋には関係のない話だったので、すっかり忘れていました。 「そっちは?誰か入ってきた?」 「ああ。大人しそうなヤツが来た」 「俺んとこはねー、背の高いちょっと目つき悪めの子ー」 それぞれに1人、新入生が来たようです。 「それで、どうなんだよ」 「え?」 「園川先輩を送ってきたのか?」 ああ。話がそこまで戻ったんですね。 「園川先輩は、朝からお仕事の為、早くに部屋を出発なさいました」 「騎士くん、何そのしゃべり方うける。執事みたーい」 朝練を終えた後だというのに、朝から元気な茶髪くん。 俺にはついていけないよ。 「なんか、いつも以上に眠そうだな、お前」 「あはは。あー、ちょっとね」 弟から送られてきたBL本を読んでたら寝るの遅くなった、なんて言えません。 意外とストーリーも面白くて、読み漁ってしまいました。 笑って誤魔化すと、エースくんが訝し気に見つめてきましたが、それを遮るかのように茶髪くんが話しかけてきます。 「ねえねえ騎士くん、知ってる?」 「知らない」 まだ何も言ってないじゃんうける、と楽しそうな茶髪くん。 本当に、朝から元気だね、君。 でも、情報通のバスケ部の茶髪くんが、わざわざ言いたいようなことなんです。 友達の少ない俺がそんなこと知ってるわけないじゃないですか。 「なんか、今年の新入生に、めちゃくちゃかわいい双子ちゃんがいるらしい」 「へー」 「園川先輩の『学校のアイドル』の座を奪いかねない程のかわいさ、だってよ?」 「ふーん」 楽しそうに話し続ける茶髪くんに適当に相槌を打っていると、エースくんが呆れたように口を挟んできます。 「お前、全く興味ないな」 「うん」 だって、そんなのどうでもいいし。 むしろ、そんな入学1日目にしてめちゃくちゃかわいいって噂になるとか、そんな子たちに近付いたら面倒ごとに巻き込まれる気しかしないじゃん。 面倒なことは回避するに限る。 そんな会話をしながらも教室に到着。 その後は、昨日園川先輩が言っていたように、球技大会のチーム分けを行います。 俺は楽そうなのに入りたかったんですが、エースくんにバスケチームへと引きずり込まれました。 球技大会には所属部活によりハンデがあるんですが、バスケの場合、バスケ部員が点を入れると半分の点数しかもらえない、とのこと。 ですが、そのハンデ以上に点を入れれば良いんじゃね?ということでエースくんと茶髪くんはバスケチームへ。 交代も予想しての7人グループ。 バスケ部2人に俺、子犬さん、始めましての人が3人。 子犬さんって結構すばしっこくて体力もあるみたいなんですよね。 始めましての人たちも運動部みたいですし。 部員が2人もいて本気のチームとか、絶対しんどいじゃん。 いつの間にやら昼休み。 球技大会への絶望を胸に、食堂へと向かいます。 「なんだか、いつも以上に騒がしいな」 「人、多い」 扉を開けて見えた食堂の様子に、エースくんと子犬さんがげんなりしています。 この2人は人が多いところが苦手みたいです。俺も仲間。 「じゃ、席先に取っとくよ」 後でお金払うからカレーライス大盛りお願い、と人ごみの中に去っていく茶髪くんが勇者に見えました。ありがとう。 「俺らもさっさと頼むか」 「そうだね」 「ん」 さっさと頼んで、さっさと食べて、さっさと退散しましょう。
/118ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1504人が本棚に入れています
本棚に追加