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ざわめきと共に周りの視線が俺に近付いてきて、
ぎゅっ
「ん?」
腰に巻き付く小さな手。
え、ちょっと待って誰?
知らない人に抱き着かれるとか恐怖なんだけど。
とりあえず、誰なのか確認するために、腕を引き剥がそうとしますが、
...剥がれねえ。
一瞬、園川先輩かなと思いましたが、もしそうなら剥がそうとした時に、締め殺されるレベルで抱きついてくると思われます。
子犬さんはついさっき見たばかりですから、違いますし。
あと他に小柄な人と言えば、風紀委員の園田先輩ですが、こんなことをするような人ではありません。
「ねえ」
「へ?あ、な、なに?」
横を向いて、茶髪くんに声をかけると、なぜかテンパっているみたいです。
茶髪くんのそんな姿初めて見ました。
って、それは置いておいて。
「これ、誰?」
「え、いや、いきなり突撃してきたから分かんないや。ごめん」
「そっかー」
困ったなあ。どうしよう。
背負い投げ...もこんな狭いとこじゃできないよなあ。
背後を振り返るも、抱きついてきた人を確認できず、グルグル回るだけに。
これじゃ、自分の尻尾を追っかけてる犬みたいです。
らちがあかないので、この人が飛んできた方向に身体ごと向くと、
「うおっ!」
何かが飛んできて、とりあえず抱きとめます。
え、なに、怖い。
本日2度目の突撃です。
俺、なんか悪いことしたかな。
正面から抱きついてきた人がガバッと顔を上げ、叫びます。
「にいちゃん!」
うわ、はい終わった。
なぜ世界はこんなにも、俺に平穏を与えてはくれないのでしょうか。
ってことは、
「背後にくっついてるのは、お前の相方?」
「もちろん!ユキのにいちゃんセンサーは相変わらずすごいよねー」
俺に抱きついたまま、顔を見上げてにこにこしていらっしゃるのはトラブルメーカー様。
関わりたくなかったんだけどな。
はあ、と思わずため息をつくと、ぎゅっと強まる腰に回った手。
「お兄ちゃん、ぼく怖かったああ」
声的に、半泣きになりながら抱きついてきているようです。
「あ、あの、騎士くん?その子たちとは一体どういう関係」
「ちょっと!奏夜、なんなのその子!」
戸惑った茶髪くんの声をかき消すように、大きな声が響きます。
顔を上げると、園川先輩がこちらに走ってくるのが見えました。
その後ろからは、生徒会メンバーの皆さんもこちらに向かってくるのが見えます。
反対側からは、エースくんと子犬さんも。
え、もうこれ以上、人気者揃わないで良いんですけど。
カメラのシャッター音が聞こえるのは、気のせいじゃないんでしょうね。
それより、
「とりあえず離そうか。お前ら」
「「やだ」」
やだじゃねえよ。
この状況を分かって言ってるのか。
前にひっついてるやつを剥がそうとすると、いーやーと叫びながらも全力でしがみついてきます。
俺とやつが格闘していると、背後から回っていた手が離れて行きました。
「あ、ほらユキはちゃんと離した、ぞっ⁈」
語尾が変に跳ね上がったのは、後ろから勢いをつけて抱きつかれたから。
恐らく、一度少し離れて、そこから助走をつけジャンプして抱きついたのでしょう。
こいつらのよくやる手です。
首に手が、腰に足が巻きつき、おんぶみたいな体勢になっています。
向こうが勝手に抱きついてるだけで、俺は何もしてないんですけどね。
「あーっ!ユキだけずるい!僕も!」
前からもよじ登ってきそうなやつをなんとか押しとどめていると、ぞろぞろと人気者がやって来ました。
いち早く俺のもとに辿り着いた園川先輩が、ビシッと指をさし、大声で叫びます。
「奏夜、その子たちとどういう関係⁈」
園川先輩の声が食堂に響き渡ります。
え、なんで周りはこんなに静かなの?
「どういう関係⁈」
もはやキレてない?園川先輩。
まあ、隠す必要もないですし、普通に答えますけど。
「あーえっとですね、弟です」
「「「「「弟⁈」」」」」
みんな声でかいし、揃いすぎです。うるさい。
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