始業式

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「お前ら、そろそろ離れろ」 これ以上は怒るぞ、とそれぞれの丸い頭にチョップを入れると、渋々といったように離れていきます。 「え、ちょ、この双子が奏夜くんの弟なの⁈」 「はい」 「あ、違います恋人です」 「「「は?」」」 馬鹿なこと言うな、と追加のチョップ。 「気にしないでください。嘘なんで」 これ以上、状況を混乱させないでくれ。 「ねえ。なんで会いに来てくれなかったの?」 「僕たち待ってたのに」 ああ、もううるさい。 両脇にくっついてくる双子を抱き込むようにして口を塞ぎます。 「むうーー」 「むぐむぐ」 「あー、えっと何の話でしたっけ?」 「...その子たち、大丈夫なの?」 「はい。いつものことなので」 この双子はいつまでたっても静かにならないので、物理的に静かにさせる方法を習得しました。 「お前、そいつらと兄弟なんだよな?」と確認してくる会長さんに、 「似てない」と呟く子犬さん。 「まあ、血繋がってないんで、似てなくて当然だと思います」 「え?義理の兄弟ってこと?」 「はい」 と答えると、しーんと静まり返る食堂。 え、なんか変なこと言ったかな。 皆さん、なんだか気まずそうな顔をしています。 なるほど。 「義理の兄弟」っていうワードは、結構扱いにくいみたいですね。 触れちゃいけない感でもあるんでしょうか。 俺たちの仲が悪いとでも? 下を見ると、キラキラした2対の瞳がこちらを見上げてきます。 これのどこが仲悪く見えるんでしょう。 「あの、細かい説明は放課後するんで、今はご飯食べて良いですか?」 「え、ああ。ごめんどうぞ」 「ありがとうございます」 皆さんも早くしないと昼休み終わっちゃいますよ?とさり気なく解散を促すと、ぱらぱらと解散していきます。 園川先輩は「奏夜、ちゃんと放課後開けといてよ⁈」という台詞を残して去っていきました。 俺も食事をしたいので、むぐむぐと口を塞がれていてもうるさい双子を解放します。 「はー。疲れた。ご飯食べよ」 「え、ああ、うん」 戸惑う茶髪くんの斜め前の席に座ろうとすると、とことこっと素早く動く二つの影。 「はーい。そこ、子犬さんの席ねー」 ひょいっと持ち上げ、席から降ろします。 「子犬さん?」と不思議そうに聞き返してくる双子の片割れ。 そこもエースくんの席だから退きなさーい。 しっしっと手で追い払うと、むくれながらも席を退きました。 俺の隣に子犬さんが、前の席にエースくんが座ります。 「すみません、騒がしくて」と謝ると、 「別に、気にしない」 「人数増えて楽しいじゃん」 「お前のせいじゃねえだろ」 という、三者三様の答えが返ってきます。 皆さん、とても良い友達です。 とりあえず、軽く紹介だけしておきましょう。 「えっと、こっちの元気なのが綾人(あやと)で、泣き虫なのが幸人(ゆきと)です」 「綾人でーす」 「幸人です」 さあ、紹介も終わったことですし、はやくご飯を食べましょう。 「いただきまーす」 「ねーねー」 「お兄ちゃん」 もぐもぐ。うるさいなあ。 「にいちゃん」 「お兄ちゃん」 もぐもぐ。おいしいね。 「ねー、僕らが悪かったから、返事してよー」 「お兄ちゃんんん」 「はいはい。何ですか?お姫様方?」 それよりユキさんや。 ちょっと無視しただけなのに、なんで半泣きなの? 空いている方の手で軽く頭を撫でます。 「今度の週末さ、一緒に出掛けようよ」 「え、やだ」 「お兄ちゃん、部活入ってないんでしょ?」 「どうせ部屋でゴロゴロしてるだけじゃん」 その通りなんですがね。 せっかくの休日に、このわがまま姫2人に付き合わされるなんて嫌です。 「着ていく服が」 「ない、なんて言わせないよ?僕、にいちゃんに荷物送ったよね」 「うん。ぼくが選んだ服」 あー。あの服はここに繋がってくるのか。 俺の私服を心配して送ってきてくれたと思ったんですが、ただの優しさではなかったようです。 「あー、ちょっと用事思い出したわ。先行くね」 「あ!にいちゃん逃げた!」 「お兄ちゃんんんん!」 丁度良くご飯も食べ終わったことですし、退散。 俺、今寝不足なんだよねー いちいち構ってらんないわ。
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