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「先輩たちが卒業しちゃえばさ、その約束もなかったことにならない?」
「えー?」
まあ、直接的な効力はなくなるのかな?
俺としては、風紀側も委員長さんと園田先輩くらいしか知らないので、その後任とかも分からない状況なんですが。
次期会長は天光くん、庶務はアヤで書記はユキ。
結局、生徒会側も副会長さんと会計さんの後任については何も知りません。
お二人とも声をかけている人はいるとだけしか。
こうして言葉にしてみると、なんだか薄情なのかなって感じもしますが。
不確定な話をされる程の立場でもないってことでしょう。
別に、俺は生徒会役員というわけじゃないですし、巻き込まれたいわけじゃありません。
副会長さんは分かりませんが、会計さんはそういうとこまで察して言わずにいる気もします。
まあ、それは置いといて。
「直接約束した相手は園田先輩と副会長さんだけど…」
「でしょ?」
「でも…」
約束は約束というか…なんか、裏切り行為のような気もしてあまり気は進みません。
「その2人が卒業しちゃったら、もうその約束、守る必要もないんじゃないの?」
「…君は俺にどうして欲しいわけ?」
さっきから、煽るような言い方をしてばかりで、何がしたいのかさっぱりです。
まるで、どちらかを選べとでも言っているかのよう。
茶髪くんは俺にどっちを選んで欲しいの?
俺がどっちになったからといって、彼の得になることはないと思うんですが。
いや、情報通な茶髪くんのことだから、何かあったりするのか?
…ないよね?ないと信じよう。
いろんな考えが頭の中をよぎるのを感じながら半目で見やれば、
「いや、別に?騎士くんが好きなようにすれば良いと思うよ」
と頬杖をつき、ニヤニヤとこちらを見てくる茶髪くん。
あ、これはただ単純に…
「おもしろがってるだけでしょ、君」
「まあね。側から見てる分にはすごくおもしろいよ」
「…さようで」
まあ、俺も自分のことじゃなきゃ傍観できていたんでしょうけど…そうも言ってられませんしね。
ほら俺はさ、と頬杖をつきながらも目を伏せ、空いたもう片方の手でハケをいじる茶髪くん。
「情報がいろいろと手に入りやすいわけ」
「知ってる」
茶髪くんは、情報が集まりやすいことで有名なバスケ部の中でも、一番の情報通だとか。
実際、生徒会内でも役員ですら知らない情報を持っていたりすることもありますし。
「だからさ、多分当事者である騎士くんよりも事態を把握できてると思うんだよね」
「まあ、そうかもね」
うん。それは、何も言い返せない。
元々俺は、情報に疎い人間ですし。
今までだって、周りの子たちはみんな知ってるのに俺だけ知らないとか、よくありましたから。
「んで、今、騎士くんは自分が思ってるより、いろんな物事の中心にいるんだよ」
「それは…」
「避けようがない事実。良い加減、諦めた方がいいと思う」
否定しようとしたら、先回りしてバッサリと切り捨てられました。抗う隙もなし。
そして、どこか退屈そうだった彼が手を止め、こちらを見上げると、スッと目を細めて見つめられました。
「だから余計に、君がどんな選択をするのか、気になっちゃうのかも」
普段のおちゃらけた軽い様子はどこへやら。
まるでこちらを観察するかのような、虎視眈々と狙うような瞳。
実際に茶髪くんと戦ったことはないけど、真剣勝負の真っ最中という感じ。
「で?」
「『で?』とは?」
「や・く・そ・く。どうするの?」
次の瞬間には、いつもの調子で問いかけてくる茶髪くん。
さっきまでの真剣さは、あっという間に消えてしまいました。
「…どうしよっかねえ」
話は始めに戻ってしまいました。
俺としては、約束はこのまま継続ということにしたいんですが…。
それではだめなんでしょうか。
「せめて、先輩たちが卒業するまではこのままとか…」
「俺の考えでは、その前にどっちかを選ばざるを得ない。というか、選ばなきゃいけなくなると思うんだよね」
「えええ…」
なにそれ。
「で、その時どっちを選ぶのか、今のうちから考えておいた方がいいと思う」
やけに確信を持った言い方をする茶髪くん。
先程自分で言っていたように、何か俺の知らない情報から導き出された答えなんでしょう。
そう考えると、いきなりその時に決めろと言われるよりはマシなのか?
うーん、と煮え切らない返事をしていると、子犬さんがこつん、と後頭部を俺の胸に当て、こちらを見上げてきます。
「ん?」
「そーや、こまってる?」
「困っているというか…」
ただ漠然と、このままでいられると思っていたといいますか。
何となく、どちらにも入らなくても良いと思っていたといいますか。
今までちゃんと考えていなかったんだなあ、と。
このどっちつかずの立ち位置が許されていたのも、今の先輩たちのおかげであるということも。
その先輩たちが引退する、卒業するということは、自分でどうするのかを決めていかなければいけないということ。
「やっぱり、困ってるかもしれません」
ずっと流され続けてきたツケがまわってきた気がします。
俺も、自分の身の振り方をちゃんと考えなきゃいけないのかもなって。
どちらも選ばないという選択肢を選ぶなら、別の方法でそれなりの貢献をしなくてはならないということ。
ほんと、どうしましょう。
「ちょっと萩原、手止まってんだけど。サボってんじゃないよ」
「だからなんで俺だけ注意されんの?騎士くんも先輩もサボってんじゃん!ハヤなんてどっか行っちゃったまんまだし!」
茶髪くん、どんまい。
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