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裕二と敏明は建物の中に入っていった。廃業となった旅館を改装して作られた施設で、自然学校の間はここで生活している。食堂に入ると、裕二たち以外の生徒はすでに席に着いていた。男女別々で、男子のテーブルには裕二たちがいつも座っている二つの席が空いている。
裕二は自分の席に座ると、あらためて他の男子の顔を見てみた。敏明とは自然学校が終わっても会えるが、他のメンバーとは住んでいる場所が違うのでなかなか会えない。少しさみしい気持ちになった。
「遅かったね」敏明とは反対の席に座っている大塚健人が声をかけた。千葉県から参加している生徒で、裕二たちより一つ下の中学一年生だが、自然学校の間は学年は関係なしという方針のため、裕二と対等に話す。
「時計がなかったんだよ。スマホを取り上げられてるだろ」
「しかたないよ。ここでは日常から離れた生活をするっていうのが目的なんだから」
「わかってるけど、スマホがないっていうのは不便だな」
やがて食堂に、生徒から先生と呼ばれている人物が入ってきた。本田という男性で、自然学校の監督を務めている。他に大人はいないので、生徒たちにとっては唯一頼れる存在である。
「食事の前に大事な話がある」本田は自分のテーブルまで来ると、席には着かずに生徒たちに向かって言った。食堂内は静まりかえり、緊張した空気が漂った。本田が入ってくると食事が始まると思っていた生徒たちは、驚きを隠しきれない様子だった。
「明日はみんな地元に帰ることになっているが、問題が発生した。みんなを迎えにくることになっていた船の会社が急遽倒産して、ここまで船が来れなくなったんだ」
食堂内にざわめきが起こった。ここは本州から遠く離れている。迎えの船が来ないとなると、地元に帰れないのだ。
「どうするんだよ、先生」男子生徒の一人が思わず叫んだ。
「まあ、落ち着け。今入った連絡だと、別の会社の船が明日の朝到着することになっている。ただ、急なことだったために、予定より小さな船だそうだ。定員は操縦士を除くと七人だそうだ」
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