第一章

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 食堂内は静まり返ってしまった。ここには本田を含めて十三人の人物がいる。そのうち、七人しか船には乗れないのだ。  「あの……残りの人はどうするんですか」女子生徒の一人が尋ねた。  「次の船を待つしかないな」本田は力なく答えた。  「次っていつだよ」先ほどの男子生徒が聞いた。  「さあ、それについては何も連絡がない」  「何だよ、それ。無責任だな」男子生徒は憤慨して言った。  「俺に言ったってしょうがないだろ。それより、誰が船に乗るかを決めよう。まず、俺が乗るとして……」  「ちょっと待てよ。あんた引率者だろ。俺たちを置いていく気かよ」  「落ち着け。俺の代わりに別の者が船に乗ってここに来る。その人と交代するだけだ。後の六人は君たちが決めろ」  生徒たちの間にざわめきが起こった。自分たちの半分だけが迎えの船に乗ることはできる。残りはいつ帰れるかわからないのだ。  「あの……」先ほどとは別の男子生徒が聞いた。「その船に全員乗ることは出来ないの?」  「何を考えているんだ。船が定員オーバーになったら、沈むじゃないか。本州まで24時間かかるんだぞ」  「くじで決めようぜ。それなら公平だろ」さらに別の男子生徒が言った。  「ねえ、提案があるんだけど」女子生徒の一人が言った。「それだったら、男女別々にくじをしない?」  「どういうことだ」  「例えばだけど、一緒にくじをしたら、男子五人、女子一人がここに残るってことも考えられるでしょ。そうしたら……」  「何だよ。それって、もしそうなったら、俺たちがその女子に何かするとでも思ってるのか」  「そうじゃないわよ。もし私がその一人になったら、心細いし……」  「やっぱりそう考えてるんじゃないか」  「まあまあ」本田が言葉をはさんだ。「俺の代わりの先生がちゃんと監督するだろうから、何も間違いは起きない。安心しろ」  「でも……」別の女子生徒が言った。「間違いが起きなかったとしても、私がその一人になるのはやっぱり嫌。別々にくじをしましょう」  「そうだな。じゃあ男女三人ずつが船に乗るということにしよう。で、くじはどうする?」  「あみだくじは?」  「幼稚だな。それより、紙に当たり外れを書いて箱に入れて、順番にひいていくことにしようぜ」  「ちょっと待って。くじを引くのは明日の朝にしないか」  「何で?」  「今くじを引いたら、男女それぞれ、船に乗る三人と残る三人が決まった状態で今夜同じ部屋で寝ることになるだろ。それって気まずくないか」  その意見には、誰もが納得した。たしかにそうなった場合、帰る三人も、島に残る三人も、気まずい思いで今夜を過ごすことになる。  
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