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死角
「ねぇ、あんなヤツのどこがいいわけ?」
「ん~、顔?」
すっとぼけた顔をして彼は綿あめを口に含んだ。
そのスカした態度に腹が立つ。
「性格は絶対あたしの方がいいじゃん!」
「え~? 自分で性格がいいとか言うヤツ、信用ならねーじゃん」
彼は、ガムを吐き捨てるように言った。
「ひっどーい! 女の子にはもっと優しくするもんでしょ!? あんたのそういうとこが人を傷つけるんだよ!」
彼に指を指して、まくし立てる。
「大体ね、ちょっと顔がいいくらいで簡単に女を捕まえられると思わないで! あんたの代わりなんていくらでも」「でも現に付き合ってるじゃん」
口をつぐむ。
「女は顔に騙されない、とか言っておきながら、お前は捕まったじゃん」「いや、だってそれは」
女の子がたじろぐ。
「それは、違くない?」
「……俺、お前のそういうところ嫌いだな」
彼は白けた目で女の子を見つめた。
その目が嫌いだ。
「……ごめん。ね、あっちには行かないで……?」
女の子は彼の袖をつまんで、お得意のおねだりをする。
そうすると彼は決まって、
「ん、わかった」
甘い笑顔を顔に張り付け、女の子の腰に手を回すのだ。
私はその光景を後ろからずっと見ていた。
彼はいつもそうだった。昔からずっと変わらない。
祭りの雑踏に紛れるように、私はそっと浴衣の帯から携帯ナイフを取り出した。
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