お父さん

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不器用な父はいつも通り不機嫌そうだ 私はこんな父が大の苦手だ 気難しくて、厳しくて、口うるさくて、不器用で 叱られて喧嘩したことだって何度もある それでも 同時に支えてくれたことも何度だってあった 不器用すぎる両手で家族を守ってくれたこと その厳しさも愛情の裏返しだったこと 今なら全部理解出来るのだ だから私はここで折れてはいけない これだけは伝えなければ きっと一生後悔するんだ 「恥ずかしいなら何も言わなくていい でもこれだけは伝えさせて 私はあなたの娘として生まれて幸せだった 誰に何と言われようと それだけは胸を張って言えるよ」 聞くと父は後ろを向き、だが何も言わず ただ静寂の時間が流れる それから恐らく数秒経ったあと 「おう…そうか…」 とだけ返事をして、リビングから出ていってしまった それは よく見てきたいつも通りの光景 ただいつもと違うことは そこに残していったものは いつも通りの返事と 床に落ちていた一雫だった
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