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空を見に来た。違うとも言えるが、確かにそうとも言える。空を仰がなければUFOには出会えない。 相変わらず表情が分かりにくいが、彼女は蝋人形ではなかった。話すことはできるし、微笑んでもくれる。彼女の笑顔をもっと見たいと、彼女の声をもっと聞きたいと、そんな衝動に駆られた私は必死だった。必死に話しかける言葉を探した。どんなことを話せばこの人は楽しんでくれるだろうか。 「あの、僕は空もだけど、UFOを見たいと思って来たんだ。今日はUFOの日だって、友達が話してたから、だから......」 結局、何を話せば良いのかも分からず、パニックでしどろもどろになりながらも、正直に告げてみた。 昨今、テレビをつければオカルトを取り扱う番組に満ちている。タレ目のおじさんが唾を飛ばしながらUFOやネッシーの存在を主張していたり、眼鏡をかけて大きな黒子をこさえた教授が思い切り否定していたり。世の中の需要も高いのだとは思う。でも、本気で信じて傾倒している人は、然程多数派ではないのではないだろうか。私は本気でオカルトに熱中していたし、学友とそういう話題で盛り上がることは多かったが、熱量の差とでもいうのだろうか。奇異なる者を見るような、そんな視線を感じることも多い。 だから、いきなり「UFOを見に来た」などと告げるのは失敗だったかもしれない。だが、彼女の目を見ていると、私は嘘がつけなくなるらしい。 「君、面白い子ね。UFOを見るために態々、こんな所まで登ってくるなんて。やっぱり、私と同じだった。」 今度は、気のせいではない。確かに笑ってくれた。面白いと言ってくれた。そして、同じ目的でこの場所に来たと言ってくれた。そうなると、私の口からは堰を切ったように言葉が溢れてくる。テレビで観たこと、本で読んだこと。彼女は、そのどれもを目を合わせたまま、しっかりと聞いてくれた。 彼女の話では、この石清尾山というのは、いくつかの小さな山が集まり『 石清尾山塊』とも呼ばれている。そして、この山塊上には古墳群が存在しており、積石塚や盛土墳をすべて合わせると200基以上もあるのだとか。 古墳というものはそもそも大昔の高貴な人間の陵墓であるが、UFOの発着場であるという都市伝説も、広く流布されている。もし、その都市伝説が正しかったとしたら、ここ香川県で最もUFOに遭遇する可能性が高いのは石清尾山古墳群なのだという。 「君は、ちょっと難しい言葉だけど『 中央構造線』って聞いたことあるかな?」 首肯する。確か、関東から九州まで伸びている途轍も無く長い断層だった筈だ。断層という言葉の意味も、関東という場所までの距離感も曖昧ではあったが、初めて聞く言葉ではなかった。 「歳の割に博学なのね、君は。その中央構造線は大きなエネルギーを溜め込んでいてね、UFOはそこから漏れるエネルギーを使って飛ぶんだよ。って言ったら君は信じる?」
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