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駄々とプロポーズ
待っててね!ぜったい!おれが大っきくなるまで!
何度そう駄々を捏ねたか知れない。
幼い頃近所に住んでいた優しいお兄さんは俺の初恋相手だった。
最初は男の人だとは分からなくてーーと言うか、性差というものを意識する前の事だったのだと思う。
暗くなっても一緒にいたい、そうじゃなかったら明日もあそびたい。
それに、だれかほかの人と一緒にいるのも嫌だ。ずるい。ずっとずっとどこにも行かないでほしい。
それにはどうしたらと聞くと、拙い問いに保育士さんは「じゃあケッコンかな」と言った。
その日の夕方にはプロポーズして、笑顔とお礼をもらったように思う。
弾んでしまうほどにしあわせだったが、それが続いたのはほんの一週間程度。
パパのおしごとがかわるのよと言われ、よく分からないまま母と引っ越す時にもごねにごね、まる二日頭が痛むほど泣いて暴れた。
その後は祖父母に会う為年に数回だけ帰るようになり、女の子とは遊ばないだの、男の子は来ちゃダメだの、そんな時期を迎えても年に数度の駄々とプロポーズは続いた。
やはりもっと手前の欲求だったのだろう。
リボンや石ころや、タオルやダンゴムシに抱く執着のような。
どうしてそんなに拘るのか、本人以外にはさっぱり分からない、本人も本当は分かっていない、そんな風なものだった。
ーー思春期の、見た目だけはおとなと呼ばれる歳になった頃、訪れる回数の減った俺と、そわそわしたような記憶の中のままの彼。
柔らかくて儚くて、風に揺れる小さな蕾のような。
老けたわけでも窶れたわけでもないそんな彼が本当に待っていたのだと、気付いて俺は絶望を知った。
(一旦)終わり
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