十章 決意

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 今日の放課後は、夏休み前最後の体育祭実行委員会の集まりだった。   前回は結城くんの方から直々に『一緒に行こう』とお声がけいただいたけれども、今回は特に声もかからず彼は彼でさっさと指定の教室に向かってしまったようだ。一人きりで教室に向かいながら、目立たなくて済んだという安心感と、彼の些細な変化への困惑とが同居していた。 「今日は、体育館倉庫に向かいます。体育祭で使用する用具と、グラウンドへの持ち運びの手順の確認を行いますよ」  実行委員会全員でぞろぞろと体育館内に入っていくと、むんわりとした熱気と運動部員達のキレの良い掛け声が飛び交っていた。この暑い中、よく冷房設備もない場所で激しく運動しているものだとひたすらに感心してしまう。  体育館の壁際を通って倉庫に入り、各自が割り当てられたプログラムで用意する運動用具の保管場所を確認していたら、体育館の方から半袖のピンクのTシャツに半ズボンタイプのジャージ姿の星野さんが顔を見せてドキッとした。  部活着みたいだ。そんなさりげない格好でも、顔の小さい彼女が着ると格好良く見える。  体育祭実行委員会に紛れて、星野さんはなんなく結城くんの傍に辿り着いていた。薄暗いはずの倉庫が二人の輝きで急に少し明るくなったように思えた。 「お疲れー。授業以外で真弘が体育館にいるなんて、なんか変な感じ」 「……この頃は暑いからな」 「あはは。夏じゃなくても、来ないじゃん」 「まぁ、体育館に行くぐらいなら家に帰りたいし」 「えー、真っ先に家に帰ってもつまんないじゃーん。たまにはダンス部を見学しにきてくれてもいいんだよ?」 「オレはどういう立ち位置なんだよ。絶対いかねーわ」 「たしかに。想像したらウケる」
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