十章 決意

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 今日は終業式だ。教室に入ると、みんなの顔色が心なしか喜々としているように見えた。明日から始まる夏休みへの高揚感か、もしくは単純に今日も午前中に授業が終わるので午後に入っている楽しみな予定への期待でいっぱいなのかもしれない。  結城くんの様子をうかがうと、今朝もイヤフォンを両耳にひっかけて文庫本に視線を落としていた。この頃の彼はいつもこのスタイルだ、まるで人形のように覇気がない。そうやって無表情を貫いていると、綺麗な容貌が災いして冷たそうに見える。  三日前の体育祭実行委員会の時以来、彼はずっとこんな調子だ。わたしはたまたま同じタイミングで縄を運ぼうとしたあの時に会話が途切れてしまってからまだ一回も話せていない。わたしどころか、いつも仲良さそうにしている面々も彼のあまりの外界へのシャットアウトぶりに恐れをなしている。 「おはよう、真弘。今日も仏頂面してるのね」 「っ。勝手に人のイヤフォンを引き抜くな」 「そっちが朝から辛気臭(しんきくさ)いオーラ振りまいてるからでしょ~? ねえ、なんかあった?」 「……別に」 「もー、折角の午前授業なのにいつまでもそんなテンションじゃもったいなさすぎるって! 気分転換に体育館にでも来てみたら? 特別に部活の練習、見学させてあげるから」 「まだそんなことを言っていたのか。あんなクソ暑いところ、誰が()(この)んで行くかよ」 「ひっどーい、全運動部員に土下座しなさい! はぁ……真弘って(ちまた)では王子とか言われてるけど実際はほーんと性格悪いよね」 「そもそもオレのことを王子とか言い出したやつは誰なんだよ……」 「はいはい。みんな幻滅しちゃうから、もうその辺にしといたら?」 「……勝手に幻滅すれば良い」  どう見ても虫の居所が悪そうな結城くんに、唯一絡みにいけるのは相変わらず星野さんただ一人。ああしてじゃれあっているとカップルの痴話喧嘩に見えなくもない。 「あの二人、そろそろほんとに付き合っちゃうかもねぇ」 「でもまあ、美織だったら結城くん取られても仕方ないのかなぁって思うわ」  周囲のひそひそ声が耳に刺さる。  でも、どうしようもないじゃないか。  だって、星野さんだったら仕方ないってわたしでも思うもん。  今となっては、結城くんと少しでも繋がりをもっていた日々がなんだか幻だったように思える。
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